●『野獣!?天使サンタ登場!!』
その夜、蓮は自分の部屋でくつろいでいた。 世間ではクリスマス。 しかし蓮には、そんなイベントなど興味が無かった。 温かなコーヒーを飲み、本のページを繰る至福の時。いつもと変わらぬ夜。 蓮はコーヒーを口に運び、その芳醇な香りの余韻を楽しむ。 その時、窓から見える景色が変わった。ささいな変化だが、大きな変化でもあった。 何故か上空から、荒縄が降りてきたのである。 次の瞬間──。 大きな音をたて窓ガラスが粉砕されると同時に、赤い衣装に身を包んだ曲者が跳び蹴りで乱入した。 「天使サンタ登場なのじゃ!」 自称天使サンタが、大声で自己紹介する。 赤いミニスカートのワンピースには雪のように白いファー。 そして躍動感溢れる上腕二等筋、引き締まった大胸筋。 何かが──何もかもが違う。 正体は一目でわかる。蓮の従兄妹の菫だ。 彼女の突然の登場と、あまりにもすごい姿に動揺する蓮。 しばし呆然としていたが、はっと我に返り優しく微笑んで見せた。 「菫ちゃん……!? えっと……今日クリスマスだったんだね。その姿……可愛いよ……うん……」 蓮は、いかにも苦しげに褒めてみる。 その褒め言葉をどう受け止めたのか、菫は無表情で懐から長いピンクのリボンを取り出した。 二三度、力の限りにリボンを引っ張り強度を確かめると、目にも留まらぬ早業でリボンを自分の体に巻きつける。 そのまま蓮の瞳を真っ直ぐに見つめる。 「妾が従兄様のクリスマスプレゼントなのじゃ!!」 腰をひねり内股にして、両手を可愛らしく頬に添える菫。 部屋中の空気が凍りついたのは、外気が流れ込んだためばかりではないだろう。 その隙を見逃さず奇声と共に蓮に向かって跳びあがり、見事なムーンサルトプレスで真横に座ると、素早く彼を抱きしめる。 マッシブな太い腕に捕まれた蓮は身動きがとれず、どうすることもできずに菫のされるがままになった。
蓮は観念したように静かに目を閉じる。 薄れいく意識の中で、自分のこれからの命運を祈るのが精一杯だった──。
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