●『夜景の見える展望台で』
雪の降る聖夜に、聖は聖弥を外へと連れ出した。 「……夜景の綺麗な場所が、あるんです……」 そう言って、聖が案内したのは小さな山の上にある展望台だった。 クリスマスイヴを迎えるにあたって、管理者が飾り付けたのだろうか、展望台近くに植えられた木々にもクリスマスらしい装飾が施されている。 「……綺麗、ですね……」 「……ああ」 赤、青、黄、緑、金、銀、様々な色の飾りが付けられた多数のクリスマスツリーは、それだけでも一見に値するだけの景色だろう。 だが、彼女が聖弥に見せたかった風景は、こんなものではない。 「……こっちです」と、聖が聖弥の手を引っ張る。 聖弥は抵抗もせず、ただ微笑んで引っ張られるがまま歩いていた。 こうして、二人が接するようになってから一年と少しほど。 それは、決して短い時間ではない。 しかし二人共に、その性格ゆえだろうか。接するその態度からはお互いいつまでも固さが抜けることはなく、その証拠に聖弥の手を引いている聖の顔は赤くなっていた。 ただ手を握っているだけなのに、気恥ずかしくて聖弥の顔を見ることも出来ない。 そんな聖の聖弥への態度が、二人の現在を何より強く物語っていた。 「……もうすぐ……」 呟いて、聖が連なるツリーの前を通ってさらに歩いていくと、やがて視界が開けてきた。 そして二人の目の前に現れる、聖夜の古都鎌倉。 淡い雪に彩られ、白く染まりつつあるその街は、展望台のツリー同様にクリスマス色に飾り立てられていた。 普段の街とはまるで違う、それは、街全体をキャンパスにした極彩色の絵画のようだ。 「……凄いです、よね……」 聖が街を見下ろして、そっと聖弥に身を寄せる。 聖弥は、聖の方に顔を向けると、小さく微笑みかけて頷いた。 「……ああ、凄い景色だ」 満足げなその声を聞いて、聖もその顔に満面の笑顔を浮かべる。 二人だけでそこに立って、お互いに身を寄り添い合って、景色を楽しんで、 聖が聖弥に向かって言う。 「……メリークリスマス、聖弥さん」 聖弥が笑みを深めて、聖の手をしっかりと握り締めた。 「……メリークリスマス、聖」 気温は低く、風も冷たい。けれど、聖はそんなものはまるで気にならなかった。 心がとても温かいから。 この温もりを全身で感じようと、彼に身を寄せて、聖は夜景を眺めていた。 もし叶うなら、来年もこの場所でこの夜を迎えたい。 告げることすら恥ずかしい、そんなことを思いながら……。
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