●『Zweites Weihnachten』
クリスマスの華やいだ街並みを、砂夜はクリストフと並んで歩いていた。 「あ、クリストフくん、あそこもいいかな?」 「勿論」 次の店を指差す砂夜に、クリストフは笑って頷く。その腕には、もうかなりの荷物――あちこちの店で砂夜が買った物だ――があるというのに、重いだなんて素振りは、これっぽっちも見せない。 解っている。 買い物に付き合って欲しいと頼んだ時から、彼はこうして嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれるだろうって、そう思っていた。だってフェミニストで、いつだって優しいクリストフだから、そうに違いないと確信めいたものを持っていた。 ちゃんと、解っている。 それはきっと……あたし、だからじゃなくて。クリストフは、誰か他の女の子から頼まれたとしても、同じようにこうして、笑って付き合ってあげるのだろう。 だって、彼はそういう人だから。それを砂夜は知っているから。彼の、その優しいところは、決して嫌いではないけれど……。 「……」 「――どうか、したか?」 「あ、ううん、なんでも」 ほんの少し顔を曇らせた砂夜。その変化を敏感に察知して、すぐにそう気遣ってくれるクリストフに、砂夜は慌てて首を振った。 (「ダメだなぁ、クリストフくんに心配させちゃうなんて」) せっかく、クリスマスなのに。 たとえ、そうだったとしても、また今年もこうして一緒に迎えられたクリスマスだというのに。 暗い顔をしてしまうだなんて、なんて勿体無い事を。 (「そうだよ。せっかくクリストフくんを独り占めできるんだからさ」) 「ねえクリストフくん。あれ、少し歩いてみない?」 くすっと笑って、砂夜が指差した先には、クリスマスらしく盛大に飾り付けられた街路樹。ちょうどタイミングよく、イルミネーションが点灯した所だった。 「美しいものだな。今日までだと思うと、少し惜しい気もするが」 「そうだねー。でもさ、限られた時間だけだから、より綺麗に感じるのかもしれないよ?」 今日が過ぎれば、このイルミネーションはまた、来年までお預け。 限られた時間だからこそ、心に強く訴えかけてくるのかもしれない。 ……なんだか、今の自分の気持ちに似ている気がするな、と砂夜は思う。 今だけの、特別な時間。それは砂夜にとって、本当に幸せなものだ。 それでも……。 「来年もまた、一緒に見れたら、いいね」 今こうして一緒に過ごせるだけでも幸せだと、そう感じている自分がいる一方で、来年もまたこんな風に2人だけの時間が欲しいと、砂夜は願わずにいられない。 我侭だろうか? 「そうだな」 彼にとっては軽い気持ちでの相槌かもしれないけれど、クリストフがそうやって頷いてくれるのを見て、ちょっと喜ぶくらいは、いいよね?
「メリークリスマス、クリストフくん」 砂夜は傍らのクリストフを見上げると、今の素直な気持ちを笑みに浮かべて、そう言った。
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