●『クリスマスも修行中~休憩中の一幕~』
雪山を駆ける足音が要の耳にははっきりと聞こえていた。 強く、鋭く刻まれるそのリズムに相手との距離が近いことがわかる。真後ろに迫る追跡者を迎え討つために要は足を止めると深く腰を落として構えをとった。 「ふっ!」 次の瞬間、相手が息と共に繰り出した拳が要の頬をかすめる。反射的に身を反らし、放たれた拳の主を見れば金色の髪が目に飛び込んできた。 「雪に足でも取られたの?」 言いながらも七志は攻撃の手を緩めない。だが要もまた、繰り出される一手を負けぬ早さでさばいてゆく。 「まさか」 要はそう言葉を返すと、笑みを浮かべて大きく体を引いた。そして踏み固めておいた雪の足場に思いきり力をかけると、稲妻のような蹴りを放つ。 「くっ!」 七志の重心がずれ、体が倒れる――そう思った瞬間、要もまた相手とは別の方向へ音を立てて倒れていく。七志の放ったロー・キックが要の足を捕らえていたのだ。どさっと音を立てて倒れる二人は、目を丸くすると同時に声を立てて笑った。 互いに一本取ったらしい。 「そろそろ休むか」 要の言葉に二人は荷物を置いていた場所まで戻ると、一息つくために飲み物を手に取った。クリスマスの日まで修行に明け暮れているなんて、色気のない話だが二人にとってはそれが当たり前だった。戦友と言う絆を持つ自分達にとっては、拳で語らうことで充分にコミュニケーションがとれるのだ。 だが、そんな二人でもクリスマスの楽しみを忘れることはない。こっそりと準備しておいたケーキを互いに見せ合うと顔がほころんでいく。それから同時に取りだしたのは、聖夜に子供の頃から慣れ親しんだもの――プレゼントだった。 「あけてもいいの?」 七志の言葉に要はああ、と返事を返すと、自分もまた包みを開けた。いつになってもこの瞬間はわくわくする。そうして出てきたのは拳技用グローブだった。 「要、これって」 「七志こそ、これは」 二人は互いが持つプレゼントに目を丸くすると、顔を見合わせた。 色やサイズは違えど、まったく同じプレゼント――考えることは同じだった。二人は同時にふき出して、やっぱりなぁ、と声を掛け合った。実用重視で色気のないプレゼントだったが、二人にはそれでよかったのだ。 それから、グローブを身に付けて視線を合わせると、お互いの手の甲を軽く当てる。手相撲をするような感覚に、七志はふと、思い出したことを口にした。 「そういえば、誕生日のあの時……」 「ああああれは裁の策略だ! 気にするな! 忘れるんだ!」 「?」 必死に声を上げる要に、七志にはきょとんとする。ほのかに染まる要の頬の意味を、彼も彼女もまだ知らない。
今日は、少しだけ修行を忘れて、友と一緒に話をしよう。 これまでの武の思い出とはまた違った楽しい日々を紡ごう。 そうして、二人の絆を刻むように雪山のクリスマスは過ぎて行った。
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