柊・エル & カイル・クレイドル

●『クリスマスの魔法』

「見てみて、カイルん! おっきなツリーがあるのです!」
 キラキラと待ちを彩るイルミネーションに歓声をあげながらエルはコートの裾を翻す。寒さによるものかクリスマスの雰囲気によるものか、白い肌をほんのり赤く染め、弾んだ声をあげてはしゃぐ恋人の姿に、カイルは呆れたように息をつきながらも楽しそうな様子につられるように笑みを浮かべた。
「あまりはしゃぐと怪我するぞ」
 頭上から眩しい位の光を掲げるクリスマスツリーを笑顔で見上げるエルの無防備さに、無意識のうちに手を伸ばしてカイルは愛しいただ一人を抱き締める。
「カイルん?」
 ぱちり、と目を瞬いて何事かと問うような声に瞑目し、身動ぎするその身体を逃がさないように腕に僅かに力を入れて息をつけば、振り向こうとする彼女がこの腕から逃げ出さないように、耳元へと囁くのはクリスマスの魔法の言葉。
「愛してる」
 小さく囁かれ、柔らかくて優しい口付けが耳元に降りれば先までの事が嘘のように動きを止めるエル。さらりとした綺麗な髪の間から覗く耳は何時になく真っ赤に染まっていて……そして……。
「……ん?」
 普段言えない言葉を聖夜の雰囲気に酔わされて口に乗せたせいだろうか、それとも腕の中の温もりのせいだろうか?暖かな気持ちに一瞬、注意をそらした途端、ふっと腕のエルの姿が消えて……。

 ……カプッ!

「いたたた?!」
 先の甘い空気を壊すような、情けない悲鳴をあげながらカイルは慌てて噛みつかれた耳を押さえ、お返しとばかりに噛みついてきたエルを見上げる。
「さっきのお返しですよ」
 いつの間にかベンチの上に乗って普段より高くなった視線でエルは睨みつける。しかし、先の行為に驚いたのと照れたので真っ赤に染まった顔は迫力はなく、カイルにとっては逆効果、寧ろ可愛らしく見える様子に思わず笑みを浮かべてしまう。
「いっ?! ち、千切れる?!」
 今度は先程より強く噛まれれば、堪らず涙目で耳をおさえる。さっきまでの雰囲気はどこに行ったのか、とさすりながらそうっと溜息を零せば、すぐ目の前に恋人の顔。
「あれれ、強く噛み過ぎたです?」
 よほど痛そうに見えたのか、少々困った顔でエルはカイルの顔を眺める。少し考える様に小さく小首を傾げてから白い指先が薄らと噛み痕の残る耳に、労わる様に添えられる。
「……カイルんがそういうこと、いきなりするからいけないのですよ? だけど、ね」
(「普段言ってくれないから、ちょっと嬉しかったのですよ」)
 小さく笑みを浮かべ、心の中で呟きながら眸を閉じて顔を近づけて……そしてそうっと触れるように優しく今度はカイルの唇に口付ける。驚いた風に目を瞬いたカイルも、僅かに頬を紅葉させるものの、優しくエルに腕を回すと、そうっと瞳を閉じたのだった……。



イラストレーター名:たぢまよしかづ