●『初めてのクリスマス』
街の灯りも鮮やかなクリスマスイヴ。 乙羽とオリヴィアは二人で道を歩いていた。 「そうしたら、そこでファウル取られちゃって……」 と、乙羽は最近夢中になっているバスケットボールの話を、オリヴィアに聞かせていた。 今話しているのは、先日での仲間内での試合のこと。 乙葉が派手に立ち回りすぎてファウルを喰らったときの話だ。 「あら、そうなの。その、大丈夫だったの?」 「あ、軽くぶつかっただけだから、全然平気ですよ」 オリヴィアの中でバスケットといえば派手なぶつかり合いも起きるような、少々危険なイメージもあったりするのだが、楽しげに話している乙羽を見ていると、そんなことはないのかもしれないという風にも思えてくる。 「試合は、どちらが勝ったのかしら?」 問うオリヴィアに向かって、乙羽はニッカリ大きく笑う。 「もちろん、僕達のチームが勝ちましたよ。最後の決勝点は僕が入れたんだ」 そして自慢げにブイサインをする彼を見て、オリヴィアはクスリと小さく笑った。 「そうなの。頑張ったのね」 そのオリヴィアの笑顔を見て、乙羽もまた笑顔になった。 かすかに高揚する気分。 しかし、会話のネタがそこで尽きて、不意に沈黙が訪れる。 何を話そうか、と、オリヴィアが考えはじめるのとほぼ同じタイミングで、乙羽が小さく、「あ」と、声を上げた。 「どうかしたの、オト?」 尋ねるオリヴィアに、乙羽が自分の服のポケットから取り出したのは、小さな箱。 「あ、その、コレ……」 先程までの闊達さはなりを潜めて、頬を染めて乙羽はリボンが飾られたソレをオリヴィアに見せる。 「え、……オト?」 オリヴィアは半ば呆気に取られつつ、差し出されたソレを受け取った。 目を落として見るソレは、まごうことなきクリスマスプレゼント。 「メリークリスマス、です。喜んでもらえるか、ちょっと自信ないけど……」 「そんなこと……」 受け取ったプレゼントを両手で包むように握って、オリヴィアは微笑んだ。 嬉しさが溢れてくる。 そして気が付けば、彼女は乙羽に思いっ切り抱きついていた。 「あ、え、お、オリヴィアさん……!?」 顔を真っ赤にしてワタワタと取り乱す乙羽の耳元で、オリヴィアは何度も繰り返した。 「ありがとう。……本当にありがとう」 いつ以来かも忘れた、誰かと共に過ごすクリスマス。 隣にいてくれる乙羽が、自分なんかと一緒で楽しめているのかどうか、彼女は不安だった。けれど、今はそんな不安は微塵もなかった。 嬉しい。 ただ、嬉しい。 「オリヴィアさんが喜んでくれたなら、僕も嬉しいです」 言って、乙羽がオリヴィアを抱きしめ返す。その温もりが、また心地よい。 二人で過ごす初めてのクリスマスは、とてもとても温かい、喜びに満ちたクリスマスだった。
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