●『彼とのキスはポッキーゲーム』
蒼と真幸の二人は、家で恋人同士になってから初のクリスマスを楽しんでいた。 ツリーが飾られ、コタツの上にはクリスマスらしく、ちょっといつもより豪華なディナー。愛猫のシロは、クリスマスのご馳走が気になるのか、鼻をひくつかせてコタツの上に顔を覗かせる。でも、残念ながら猫が食べて良いようなものは無いし、コタツの上に登れば怒られる事を知っているので、覗き込むだけ。 今度、シロにもクリスマスプレゼントに何か買ってやると言って、優しく撫でてやる真幸。 蒼がその様子をほほえましく眺めていると、ふとポテトが目に付いて、ある事を思いついた。普通なら、こんな事は思いついても心の内にしまって終わりだが、クリスマスの魔力と言うのは不思議なものだ。さらりと提案として、蒼の口を突いて出た。 「ポッキーゲームってやってみねぇ?」 真幸はきょとんとした表情を浮かべ、3秒ほどの間を置いて聞き返した。 「ポッキーゲームってなに?」 真幸の天然ぶりに、がっくりする蒼。 「あー……ポッキーゲームってのは……」 とりあえず簡潔に説明すると、真幸は二つ返事で了承した。 (「ちゃんと判ってねぇんだろうな……きっと」) 真幸の様子を見る限りは、ほぼ完璧にわかっていないだろう。まあ、そういうところが可愛いのだが。 思わず浮かぶ悪い、というかいたずらっぽい笑みを隠し、口に比較的長めなポテトを咥える。真幸も照れ笑いしつつ咥え、ゲームスタート。 お互いに小さく食べ進む。最初長めと思っていたポテトも、こうしてみると案外短く感じられる。最初は気が付かなかった真幸だが、お互いの顔がだんだんと近づいてくると、ようやくはっとした。 (「ん? ん? ん!? こ、これってくっつ……」) 今一歩遅かった。気が付いた時には、蒼の企みは成功を収め、互いの唇が触れていた。 最後の最後になってようやく気付いた真幸はその後真っ赤になって、しどろもどろな口調で蒼を怒鳴り散らしたが、説明したのに気が付かない真幸も真幸だ、と言ってのらりくらりとやり過ごす。 照れくさいような、恥ずかしいような気持ちで一杯だったが、これはこれで、二人のクリスマスの思い出の一つとなったのだった――。
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