●『君と云う光の元で』
静かな聖夜の夜。 二人だけで祝おうと計画したクリスマスパーティの日。 料理も、飾り付けも、全部二人で手作りをする楽しい時間。 「スペルさん?」 それなのに、どこか上の空な表情のスペルヴィアを氷女は心配そうに覗き込んだ。準備ももうすぐ終わり、穏やかな時間が訪れる……けれど、彼女の表情は少しも楽しそうではない。 「亡霊退治に行ってくる」 「え?」 呟いた彼女の言葉に、氷女は驚いてぱちくりと瞳を瞬いた。 氷女がその言葉の真意を問う前に、スペルヴィアは武器を携えて慌ただしく部屋を出ていく。氷女はただ、揺れる灰色の髪を茫然と見送ることしか出来なかった。
スペルヴィアがやっと帰ってきたのは、日付の変わる少し前。 酷い怪我こそないものの、衣服には破れた跡があり、激しい戦いであったのだろうことを如実に伺わせる。 そのスペルヴィアの目に映るのは、卓の上の手をつけられないままに冷たくなった料理と、部屋の中心に座して真っ直ぐにスペルヴィアを見詰める氷女。 口元に笑みこそ浮かべているものの、全身にまとうオーラは完全に怒っている。 当たり前だ。せっかくのクリスマス、せっかくのパーティ、せっかくの……二人だけの時間のはずなのに。すっぽかした揚句に、こんなにも心配させるなんて。 「いや、本当にすまん……」 とにかく謝らなければ。 畳に手をつき、謝り倒そうと頭を下げるスペルヴィア。けれど、極度の疲労と氷女の元へ戻って来られたという安堵からか、そのまま彼女の膝へと倒れ込んでしまう。 聞こえてきたのは、静かな寝息。 「スペルさん……?」 全く、呆れてしまう。 思わず眉根を寄せた氷女の唇から、笑いが零れた。 怒ってない訳ではないけれど……スペルヴィアはちゃんと自分の元に戻ってきてくれた。それは、素直にとても嬉しい。 だから……柔らかな長い灰色の髪を、微笑みながらそっと撫でた。
聖なる夜はゆっくりと更け、灰狼と蒼鳥はやっと、二人だけの静かな時間を過ごすのだった……。
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