香住・龍樹 & 華橋院・舞雪

●『Frohe Weihnachten』

 華橋院家のクリスマスパーティーは、華やかに行われていた。ホールには、グラスの触れ合う音と、人々の笑い声が満ちている。
 美しく着飾った参加者の中で、舞雪は龍樹の姿を探していた。今夜は、初めて龍樹と共に過ごすクリスマス。少し緊張してしまって、自分の胸を軽く押さえる。
(「思い切りおめかししてしまいましたが、どこかおかしな所はないかしら」)
「舞雪」
 後から声をかけられ振り返るとタキシードに身を包んだ龍樹が立っていた。
「招待状ありがとう。舞雪、そのドレス似合っているよ」
「そ、そうですか」
 耳まで真っ赤になった舞雪がかわいらしくて、龍樹はくすくすと笑った。褒められた事が嬉しいくせに、それを隠そうと顔をそらすしぐさも、隠しきれずに顔にでている所も、たまらなく愛しい。
「龍樹さんも、とても素敵ですわ」
「本当?」
 聞いてきた龍樹に、舞雪はいたずらっぽい笑みを浮かべる。 
(「勿論、特別な格好をしていなくても龍樹さんはいつも素敵ですが、それは秘密にしておきましょう」)
 気を利かせたボーイが、銀の盆に乗せたシャンメリーを持って来た。龍樹は二人分のグラスを手に取る。
 グラスの中で琥珀色の液体が揺れる。立ち昇る泡がキャンドルの明かりで星くずのようにきらめいた。
「メリークリスマス、舞雪。世界でただ一人、俺の愛する君へ」
 龍樹はグラスを手渡しながらほんの少し身を屈め、恋人の耳もとに囁いた。
 舞雪の頬がまた赤く染まる。
「乾杯」
 グラスが触れ合う、澄んだ音がかすかに響いた。
 空になったグラスを和樹に返しながら、舞雪は微笑んだ。
「有難うございます、龍樹さん」
 私を愛してくれて。優しくしてくれて。本当にありがとう。たった一言に込めた、たくさんの意味。
 それは、きっと彼に伝わったはず。龍樹が優しく微笑んでくれたから。

 時を忘れて語り合ううち、奏でられていたクリスマスソングが、いつしかラストダンスのワルツに変わっていた。
 龍樹が、少し改まった仕草で舞雪の前に立った。そしてうやうやしく手を差し伸べる。
「良ければ俺と一曲踊っていただけますか?」
「喜んで」
 重ねた手から、お互いのぬくもりが伝わってくる。終るのが名残惜しいラストダンス。この優しい時間が一秒でも長く続きますように。そして、いつまでも二人で一緒にすごせますように……。



イラストレーター名:パプリカ紳士