先旗・禊 & 十七夜・空

●『サンタへのプレゼント』

 クリスマスの夜はどこもかしこもライトアップされ、幻想的な、あるいは賑やかな、はたまたロマンチックな、それぞれの美しさを醸し出す。
 今、空の前にある噴水もまた例外ではなく。青色のライトが水だけでなくちらほらと降る雪までもを美しく照らし出し、まるでおとぎの世界のような、不思議で美しい世界を作り出していた。
 ……とまぁ、景色は綺麗なのだけれど。それにしても寒い。
 空は冷えた手をこすり合わせて、少しでも暖めようと手に息を吹きかける。
 指先も冷たかったけれど、顔の前に持って来た手が鼻先に触れた時、鼻が随分と冷たくなっていたことに驚いた。
(「これはたぶん鼻も赤くなってるんだろうな……」)
 既に赤く染まっている指先を見つめながらぼんやりとそんなことを考えているうち、たったった、とこちらに近づく駆ける足音が背後から聞こえて来た。そして空はその軽快な足音に聞き覚えがあった。
 ゆっくりと振り向けば、矢張りその人……禊が、手を振って笑いながら駆けて来る。
 少し寒そうだけど、お洒落なミニスカートにニーハイソックス、ブーツ。赤いコートに緑のマフラーを身に付けて、おまけに頭には可愛いサンタクロースのような三角帽子。クリスマスにぴったりの可愛らしい姿だった。
 雪を避ける為に傘を差しながら走って来る彼女を見て、そういえば自分は傘を持っていなかったことを思い出した。
「わわわ、遅れちゃってゴメンだよ! 寒かったでしょ?」
 申し訳なさそうな顔で傘を差しだす禊の手に、ふっと空の手が伸び……。
「んんん!?」
 禊が驚くのも無理はない。
 だって、空の口づけは、あまりに突然だったのだから。
「……ふぁ、ど、どうしたの……? びっくりしちゃうよ」
 勿論、イヤじゃなかったけど。慌てて身体を離してしまったあと、目前の空の顔を見て禊はぷっと吹き出した。
「……あは、空ってば、鼻真っ赤になっちゃってる」
 禊は照れ隠しの意味も込めて、つんと空の鼻先を指で突いた。
 赤鼻のトナカイから、がんばるサンタさんへの不意打ちプレゼント。
「サンタさんからプレゼント貰ってばかりではいけないですから」
 たくさんの幸せをくれる彼女に、少しばかりのお返しを。
 空の顔が赤いのは、きっと寒さだけのせいではなかったから。



イラストレーター名:上弦 幸平