●『今年のDULCISは…』
クリスマスの日の夕方。朔耶と真蕗は、真蕗の自宅の台所で、クリスマスパーティーの準備をしていた。友人達と毎年開いているクリスマスパーティー。今年もまた、皆で集まって賑やかに過ごすのだと思うと、自然と楽しくなってくるものだ。 真蕗が料理、朔耶がケーキやお菓子と分担を決めて、それぞれ手馴れた様子で準備を進めている。二人とも、料理は慣れているため、相手の料理の腕前は信頼している。つまり、それぞれ何の作業をしているのかを気にしていない。 だから、真蕗は気づかない。向こうで、朔耶が明らかに調理道具と呼べないもの……バケツを手にしていることに。朔耶は、早々にケーキのスポンジ部分の生地を作ってオーブンに入れると、手にしたバケツで何かを作っている。しかも、物凄く良い笑顔で。ケーキを作っている時よりも楽しそうだ。そして、バケツの中身の準備を終えると、焼きあがったケーキをさっさとデコレーションして冷蔵庫に入れ、再び楽しそうにバケツに向かう。 真蕗が、皆で食べやすいようにと鍋を用意している背後で、大皿を準備してワクワクしながらそこにバケツの中身を出そうと頑張る朔耶。 「うーん……なかなか上手くいかないな……」 そんな朔耶の言葉が聞こえても、ケーキの飾りつけが上手くいかないのだろうとしか真蕗は考えない。 「朔耶、そっちはどう?」 「ん〜……うん」 「そうそう、冬休みの宿題のことだけどね」 「うん」 「今度、一緒にやらない?」 「そうだねー」 真蕗が話しかけても、朔耶はバケツに気を取られていて生返事だ。そんな朔耶の様子が気になって真蕗が振り返る。 「ねえ、ちゃんと私の話聞いて……って、朔耶!? 何、それ!」 「よし、完成! 俺特製の、バケツプリン!」 そこには、満面の笑みの朔耶と、料理に使われたバケツ。そして……大皿に鎮座する巨大なプリンの姿。 「一度、作ってみたかったんだよな〜」 「そ、そうなの……」 真蕗は驚きを通り越して、呆れてしまった。もう、いっそのこと感動してしまうくらいだ。まさか、自分の背後でそんなものを作っているとは思わなかった。 そんな真蕗の心境を知ってか知らずか、朔耶は使った器材を片付け始める。軽快な鼻歌なんか歌いながら、物凄く上機嫌だ。 このプリンは、後に集まった皆で仲良く食べることになった。皆、このプリンに驚かされたのは、言うまでもない……。
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