●『Marchen』
冬の夜は訪れが早く、そして長い。まだ18時頃だというのに陽はとっくに暮れ、アルトとコレットが帰り道に通った公園のクリスマスツリーのイルミネーションも輝き出している。幻想的な光がちらつき始めた雪を照らし、別れ際のふたりを包んだ。 「あ、雪が降ってきましたね。……寒くないですか?」 「雪……は好きだから……。大丈夫……です」 コレットの銀髪に降りた雪のひとひらを払い、アルトが気遣わしげに微笑む。雪が好きだというコレットは、笑顔とともにきゅっと手を握ってそれに応えた。 実った片想いの心地よい重さに、無邪気なコレットの笑顔に、アルトは喜びと緊張が半々の表情を隠せない。御伽噺の王子様はもっと素敵でロマンチックだったように思うけれど、自分がその立場になれば緊張するのも当然だ。 「この公園の光……。一緒に見れて……嬉しい……です」 無垢な瞳でアルトを見上げるコレット。恋愛ごとに疎いコレットのこと、純粋にアルトを慕うコレットの気持ちは、もしかしたら恋心には程遠いものかもしれない。けれどコレットは信じている、アルトは自分だけの王子様だと。 「……俺も、コレットさんと一緒にツリーを見れて、嬉しいです」 空気は冷たい、けれどふたりの心はあたたかい。笑い声とともに散る白い息が、クリスマスの空気に優しく溶けた。
アルトの吐く息がいっそう白くなる。深く深く、呼吸をひとつ。この世でただ一人のお姫様に、もっと素敵な夢を見せてあげたい。もっと笑顔を見せて欲しい。出来ることなら、その笑顔をずっと隣で見ていたい。願いを込めて、アルトはそっとコレットの右手を取った。 「……お姫様。大好きですよ」 「あ……。王子……様? わたしも……好き……です」 アルトの唇が、コレットの手の甲に触れる。願いは誓いに変わる。一瞬の驚きののち、コレットはふわりと笑った。 新しく結ばれた王子様とお姫様の物語は、まだ始まったばかり。だけど御伽噺のエンディングはいつだって決まっている。王子様とお姫様は、いつまでも、いつまでも幸せに過ごしました。そう言えるように、たくさんの素敵な物語を、今からふたりで紡いでいこう。そんな願いと温もりを重ねて、聖なる夜は更けてゆく。
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