●『In the nights,dream delight』
二人が『恋人』という間柄になって、初めてのクリスマスの夜を迎える。 軽度なものだったけれど読書狂であるトリスタンは、クリスマスにちなんだ洋書の作品を読み聞かせてあげようと、伽耶を自室に招き入れた。 二つ並んだ陶磁器のカップに紅茶を注げば、ほんのりと湯気が立ち。 至るところに本の積まれたその部屋の中、トリスタンは一冊の本を手に取りソファに腰掛ける。勿論、隣には伽耶の姿があった。 レースのカーテンごしに白い月の光が差し込む、ランプのゆるやかな明かりの部屋の中、二人きりの読書会。 他に聞こえる音は何もない中、トリスタンの静かな声だけが、ゆっくりと異国の物語を紡ぐ。 時折ひとことふたこと言葉を交わしながらも、そうして読書会を続けて行くうち、夜も更けて来て。 伽耶はいつのまにか、トリスタンの肩に頭を預けるようにして……眠ってしまったように見えた。 しかし彼女はまだ深く寝入ってはおらず、まどろみの中トリスタンの手を握り、 (「人ってこんなに温かかったんだなぁ……」) と、その心地よさにうっとりと微笑みを浮かべていた。 手を繋がれたことでトリスタンの視線は本から伽耶へと移る。……と、その時。 「トリス……」 普段はまだ照れて呼べない彼の名前を。半ば夢の中で、伽耶はこそりと呟いた。 握られた手と、そして呼ばれた名前に目を丸くして、トリスタンはしばらく彼女を見ていたが、その後は静かな寝息が続くばかり。 彼女を起こさないよう、そうっとランプを消してから。トリスタンはもう一度、彼女の寝顔を覗き込んだ。 すやすやと寝息を立てる彼女がとても愛おしくて、思わず笑みがこぼれる。 そのまま、自分も眠くなるまでの間、そっと見守っていることにした。 (「……貴女と出会うまで、私は誰かに傍にいて欲しいと願っていた。けれど今は、私が貴女の傍にいたい……」) 「……愛していますよ、伽耶さん」 自然と満ちた優しい想いを言葉に乗せて。 眠る彼女の夢に届くよう、そっと囁いた。
| |