●『あげたいもの ほしいもの』
赤い夕日が差す海辺に、一台の車が停まっていた。 運転席には藍色の髪をした女性の姿。助手席には茶色の髪の男性の姿。 小織と良にとって、今日は三回目の記念日だった。一昨年のクリスマスに付き合い初めて、今日で丁度三年目になるのだ。 車中で海を眺めながら、プレゼントを交換しあう。お互いの心のこもった贈り物に思わず笑顔がこぼれ……ふと気付けば、ちらほらと白い雪が、この海辺にも降り始めていた。 「……あ、雪」 「外に、見に行こうか」 以心伝心、車を降りれば自然とふたりの手は繋がれて、寄り添いながら砂の上を歩く。 良が海の側を歩き、小織をエスコート。 少し前に良から贈られたワンピースを着た彼女は、そのせいもあってか足取り軽やかに。 「サンタさんからのプレゼント、だ」 はらはらと降る雪を受け止めるように手を伸ばし、掌を上に向けて笑う。 そんな彼女の姿を見た良の口元は自然と笑みの形をつくる。 「随分、粋なプレゼントだねぇ」 勿論この、舞う白い雪も。けれどその中、隣で微笑む彼女の方が、もっと。 「……綺麗」 「ん?」 小さく呟いた良の方を見て小首を傾げる小織。良はほんの少しの照れくささもあってか、彼女の顔をちらっと見た後、雪降る空を見上げ、口を開け、ぱくっ。 「やってみ?」 「……それ、おいしいの?」 くすくす笑いながらも、きちんと繋がれたその手から伝わる、体温、鼓動。意識せずに自然と繋いだ手は、今は日常になっているけれど。それは何度でも嬉しさを感じられる、かけがえの無いもの。 ふと、互いの胸の内に立ち込める、衝動。 欲しいものが……あって、でも、君にもあげたくて。 渡したプレゼントより、あげたいものがあって。それは……欲しいものでもあって。 良が手にぐっと力を込めた所で、小織の声。 「良」 呼ばれ振り向けば、小織がぐいと手を引き、背伸びする。 そして重なった唇は、とても温かくて。 離れた時には、良は目を見開いた顔で、小織は少し照れた顔で。 やがてどちらともなく微笑んで、良の腕がしっかりと小織の身体を抱いた。 「あいしてるよ」 「あいしてる」 潮騒に消されないよう、はっきりとした言葉で。 もう、こんなに、手に入れてるのに。 もっと、もっと君を、あなたを、これからもずっと、愛したい。
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