御神楽・霜司 & 草壁・志津乃

●『冬幻郷の甘い聖夜』

 学園のもみの木の下で、お手製のカードを送り合った霜司と志津乃。
『言い伝え』の力を借りて初めての口づけを交わし、少しだけ前に踏み出すことに成功したのだった。
 それから二人きりのクリスマスをしようという流れになって自室に戻ったのだが、お互いに先程のキスのことを思い出してしまい、なんとなく落ち着かない。
 顔を朱に染めた志津乃は、恥ずかしくて霜司の顔が見れないらしく俯いてしまっている。
 表面上は落ち着いているように装い、少女の様子を優しく見守っている霜司だが、実際には同じくらい動揺しているのだった。
(「志津乃の唇、柔らかかったな……」)
 感触を思い出してしまい、理性を総動員して衝動に歯止めをかけるのに必死である。
「あ、あの……」
「な、なんだ?」
「えっと、プレゼントの交換――しましょう?」
 少し照れた様子で言う志津乃に、彼女も自分も用意したクリスマスプレゼントを手に持ったままだったことに気付く。
 予想以上に緊張していた自分に少し吹き出す霜司。
「ああ、それじゃあ、これは俺から」
 志津乃から手編みのセーターを受け取った霜司は、オルゴールを収めた箱を差し出す。
「うわぁ……凄く綺麗ですね」
 一抱えもあるようなドーム型のオルゴールだ。ドームの中には舞い落ちる粉雪と、白鳥が遊ぶ湖の光景が広がっている。
 志津乃が気に入ってくれたことに内心ほっとしながら、霜司も恋人からのプレゼントをいそいそと身につける。
 藍色のハイネックで、襟元に小さく桜と月の模様がアクセントになっている。
「お似合いです。とっても」
「そ、そうか?」
 照れる霜司に、志津乃がやわらかな微笑みを傾ける。
 オルゴールから流れるのは静かなラブソング。
「……いい音色ですね」
 気持ちを落ち着かせる穏やかな響きが、志津乃の胸にゆっくりと染みていく。
「ああ。そうだな」
 霜司は、流れる調べにちょうど一年前のことを思い出していた。
 一人夜空を見上げながら、ようやく自分の気持ちに気付いたあの日。
 想いがかない今こうしていられる事にめいいっぱいの嬉しさを感じながら、幸せを確かめるように志津乃を抱き寄せる。
「もう一度、いいか?」
 最初のキスを交わした時のように耳元で囁く霜司に、顔を赤くして恥ずかしがりながらもしっかりと頷く志津乃。
 優しく大切に。
 慈しむように、今度は長くゆっくりとした大人の口づけを。
 おだやかな幸せに包まれながら、二人の特別な夜は過ぎていくのだった。



イラストレーター名:泉