●『クリスマスキッス』
聖夜の喧騒から離れた、マンションの一室。 明かりを消して薄暗いその中で、美琴の白い服が貴也の目に眩しい。 窓際に飾られた小さなクリスマスツリーを見つめるその横顔が愛しくて、貴也はそっと、彼女の座るダブルベッドの端に座った。 ひくりと美琴の肩が震えて、貴也は微笑んでみせる。 「こわい?」 「いっ、いいえ!」 美琴はぎゅうっと右手で左手を包み込む。その薬指には、他ならぬ貴也が贈った、小さなダイヤのついた指輪がはまっているはずだ。 「ほんと、無理しなくていいぜ?」 「む、無理なんて……してないよ……」 おそるおそると言った様子で、美琴が貴也の黒いスーツの裾を握る。長くまっすぐな髪が、俯いた彼女の表情を隠す。 「その……私は、あなたと、なら……」 「……っ」 思いがけない殺し文句に、貴也は不覚にも頬に血を上らせた。 愛しいひとと過ごす、聖夜。 こんなに素敵なことがあるだろうか。 たまらなくなって、美琴を抱き締める。他意はない。とにかく愛しいと思ったから、そうしたかった。 その気持ちが伝わったのか、美琴もそっと貴也の肩に手を乗せる。 静かな夜だ。 互いに身じろぎするだけで、衣擦れの音が聞こえる。 貴也は手を滑らせて、美琴の頬に添えた。美琴の手がそれに重ねられて、どちらからともなく、微笑んだ。 まずはキスを。 あいしてるって、心から相手に伝わって欲しいから。 それから視線を絡ませて、お互いを確かめる。もちろん、どこに行ってしまうわけもないのだけれど、最愛の相手がそこにいると安堵するためにも、確認する。 「大丈夫?」 大切なひとだから、絶対に無理はさせたくない。 何度も問う貴也に、美琴は頬をほんのりと染めて、肯くばかり──これ以上は、無粋に過ぎるか。言葉ではなく、美琴の表情や様子から感じ取ってしかるべきだ。貴也はそう考えて、もう一度、口付けを交わす。 それから唇をゆっくりと美琴の首筋へ。 美琴の指に少しだけ力が篭って、安心させるように貴也は彼女の頬を撫でる。すると彼女も安心したように、ふ、と肩の力を抜いた。 「あいしてる」 思うだけでは物足りなくなって口にしたら、美琴は笑ったようだった。 「私も」 愛しいひとと過ごす、聖夜。 ああ。これ以上に、素敵なことがあるだろうか。
| |