姫乃木・月姫 & 二海堂・悠埜

●『First Christmas』

 吹く風が冷たく感じるクリスマスイブの昼下がりに、悠埜は月姫を誘ってパーティ会場を2人で散歩していた。クリスマス風の飾り付けや音楽に、月姫が楽しそうにしているのを見て、悠埜はよかった。と安心した。最近2人で一緒に行った冒険の際に起きた出来事で、月姫の表情が曇りがちになっているのを悠埜は心配していたのだ。
 不意に、月姫が立ち止まり、振り返る悠埜の目をじっと見つめる。悠埜も足を止めて、月姫の視線を受け止めていると、
「割と損な性格をしてるんですね、二海堂さんって」
 と、月姫はつぶやいた。月姫も、自分の気持ちが沈んでいるのを自覚していた。だから、悠埜がパーティに誘ってくれて素直に嬉しかった。しかし、悠埜も同じ場所にいて、同じ思いをして同じように傷付いているはずなのに、私を気遣ってくれる悠埜に、少し悪い気がしていた。
「損な性格? ……んー、俺がそう思ってないから、別に損じゃないんじゃないかな」
 今までそんなことを言われたことがない悠埜は、ちょっと考え、自分の気持ちを素直に答える。月姫は悠埜のことを頼もしく感じつつ、今日はありがとう。とつぶやく。その言葉に悠埜は照れくさそうにする。
「私、実家がうるさかったのでクリスマスとかのイベントは一度も参加したこと無かったんですよ。こんな風に誰かとイルミネーションを見るのも、案外悪くないものですね」
 月姫はそう言って悠埜の手を握り、一緒に歩こうと促す。悠埜は月姫にあわせて、のんびりとしたペースで再び歩き始める。
「どうですか? ある意味初めてちゃんと過ごすクリスマスは」
 パーティ会場をまわり終えたころ、悠埜は歩きながら月姫に感想を聞いてみた。月姫は口に出すかわりに、とても楽しそうな表情をして悠埜に答えた。
「あ、そうそう」
 悠埜は思い出したかのように、後ろ手で持っていたプレゼントさしだしながら、
「サンタって柄でもないけど折角のクリスマスだし、プレゼント。はい、どうぞ」
 と、照れ気味に微笑む。月姫はちょっと驚き戸惑ったが、
「……そういえばクリスマスって、プレゼントを渡す習慣があるんでしたっけ?」
 月姫は悠埜にたずねる。悠埜がうなづくと、月姫は差し出されたプレゼントの包みを受け取るが、プレゼントを考えていなかった月姫は少し表情を曇らせて、
「どうしよう、凄く嬉しいんですが、私、二海堂さんに何も用意してない……」
 悠埜に申し訳なさそうに視線を送る。そんなこと気にしなくていいんだよ。悠埜は優しく声をかけようと思い、
「そ……」
「そうだ、今から時計屋さんに行きましょう!」
 悠埜が言葉をかけるよりも早く、月姫はそう宣言すると、悠埜の腕を掴んで歩き出す。思わぬ展開に、悠埜はきょとんとするが、月姫に引っ張られるとバランスを崩しかけて、
「今から? ってちょっと! ちゃんと行くからそんな引っ張んな!」
 と、叫ぶ。2人の楽しい時間はまだまだ続くのであった……。



イラストレーター名:山本 流