●『寂しいパシリ男達のX'mas 「じゃらし見せんな」編』
「うわぁー雪だ。冷え込むわけだなぁ」 「……早く帰って炬燵に入りたい……」 空を見上げて降りてくる白い欠片達を眺めながら無邪気そうに呟く朱里に対し、ベルの反応はぞんざいだった。 ベルの結社『猫に竜胆』で親しい友人達とクリスマスパーティーを開くために、二人が街へと買い出しにやってきたのはしばらく前の事である。 立場的にはゲストの筈だった朱里は到着早々ベルに連行され、共に買い物を終え、寒空の下を帰路へとついていた。 来る時は明るかった道も陽の傾きと共に暗くなり、つい今しがた雪がちらつき始めた……という訳である。 そんな中を、たくさんの荷物を抱えた二人は歩いていく。 荷物の中身は様々だった。 足りなかったパーティー装飾用のクリスマス用品や材料から始まり、お菓子や追加の食材等々。 朱里はそれに加えて女性陣へのプレゼントまで購入している。
「雪なんて実家の方じゃよく降ったけど、こっちじゃ珍しいよなぁ」 「お前、雪女なんだろ……降らしてんじゃないか?」 ベルの発言に阿保か、というフィーリングの表情で返した後に朱里は空を見上げた。 「……雪積もるかなぁ」 「さぁな」 朱里の態度を全く気にしない、そもそも見ていないかも知れないくらいの適当っぽい感じでベルが返事をする。 「プレゼント喜んでくれるかなー」 「そうだな」 「何食わしてくれるのかなー」 「さぁな」 「きっと美味しいんだろうな〜」 「あぁ」 天真爛漫という感じで楽しげにとりとめなく話す朱里に、面倒くさそうに相槌を打っていたベルは、ふと……荷物の中のひとつに目をとめた。 止めたというか自分の中の何かが、強引に目を止まらせたのである。 それはクリスマス・リースの材料の一つとして購入してあった猫じゃらしだった。 何だ、猫じゃらしかと最初はベルも思っただけだった……だけだったのだが、確認後に目を別の場所に向けても……ふと気付くと、目がそちらに向かってしまう。 魔弾術士だから……という訳でもあるまい……いや、あるいは……そうなのか……自分の中の何かが……ムズムズしてくる気がする。 「……猫じゃらしがやたら気になってムカつくんだが……」 「は? 何だ、じゃれたいのか?」 ベルの言葉に喋っていた朱里が一瞬キョトンとした顔をした後、視線をベルと猫じゃらしの間で往復させてから明るく言い放った。 「帰ってからな」 イラッときたものの、何か言ったところで無意味そうである。 ベルは自分の中にある気持ちを……帰ったら早く炬燵に入ろうとか……色々なものを利用して何とか逸らすと、荷物を改めてしっかりと抱え直した。
追伸。 猫じゃらしはリースにも飾られましたが、パーティー中に猫変身したベルへのからかい道具としても使用されました。
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