●『10ヶ月越しの想い』
「わー。ねえ、狛クン。あたしたち、何処か魔法の国の、光の森を歩いてるみたいだね」 様々なイルミネーションに輝く並木道。 楓が、彼、狛をふり返って、楽しそうに言う。 「……」 何も言わないけど、優しく微笑んで、彼女を見つめ返す狛。 付き合い始めて、最初のクリスマスだ。 バレンタインに楓が告白し両想いになったものの、それからすぐに狛がイギリスへ旅立ってしまい、離れ離れになっていた二人。狛が帰国して、やっと恋人らしくデートができるようになった。 しっかりとつながれた二人の手。 ときおり、頬をなでていく冬の風のつめたさも、なんだか今は心地いい。二人はとても、あたたかだから……。 イルミネーションはその数を増し、二人が歩くのは、宵闇の中に浮かぶ光の回廊のようだ。 「わーすっごい綺麗だねー!!」 子どものようにはしゃぐ、楓。 「……楓の方が綺麗だよ」 そう言った狛と、一瞬、見つめ合う。楓はすぐ笑顔になって、 「ベタすぎる!!」 と言いつつも……楓はすこし、照れてしまう。 「行こう!」 狛の手を引いて、また楽しげに歩き出す楓。落ち着いている狛だけれど、そんな楓のことを見て、彼も嬉しそう。 やがて二人が光の回廊を抜けると、ふと、しんと静かな広場に出た。今、人の姿はない。遠のいたイルミネーションの明かりが、広場の周りを取り巻いているだけだ。そして、 「あ。雪……」 これまではしゃいでいた楓も、思わず言葉をなくす。 一つ、二つと、目の前にぽうっと小さな灯かりがともるように、降り出した雪。 それはすぐに、街一帯を包み込む。 空から延々と降り注ぐ雪のその様を見ていると、なんだか、永遠なんていうものも、あるんじゃないかって、思えてくる。 二人の間にある、言葉にできない確かさ。 夜空の中にいるみたい。 彼方此方で、イルミネーションがゆれている。 夜空に浮かぶ、名前も知らない星の街のよう。これからも、二人でずっと、一緒に、こうして同じ景色を見ていたい。 言葉にするのは何となく照れるけど、今なら、言葉にしなくても、きっと伝え合えている。 しんしんと、降りつづく雪の中、あたたかな光が、二人を包む。 ずっと変わらずにある星座みたいに……。 来年もこうして、いられますように。 来年も……これからも、ずっとずっと。
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