●『「完璧な仕上がりだわ…」「ボク達天才かもね!」』
それはとても寒いクリスマスの出来事。 街には恋人たちが溢れ、通りのあちこちで電飾が夜を待ちきれずに瞬く。 子供たちも、お祭りのような雰囲気に終始にこやかだ。 しかし、同じ空の下には異様な緊張感を持って、この日を迎えた者たちもいた。 ゴゴゴゴゴゴゴ……! キッチンで向かい合う奈菜と力の周囲で空気が震える。 「今年こそ、やりますか。ヤっちゃいますか」 「ええ……よくってよ」 短いやり取りが交わされると、2人は調理用のテーブルを振り返った。 らんらんと光る4つの瞳が、そこに置かれたブツを睨みつける。 真っ赤なサンタ衣装の上から、フリルの付いたエプロンを身に付けたら……開戦だ。 2人のケーキ作りが今幕を開ける。 奈菜はスポンジケーキを手にとると、大きなボウルに丸ごといれ、上から生クリーム(泡立てていない)を注ぐ。 白く染まるスポンジに向けて、次に投入されたのは……塩だ。 大きなスプーンで豪快にボウルへ純白の結晶が降り注ぐ。 「ちょ、ちょっと奈菜! いきなり目分量は危険よ……今年はもう少し真面目に作りましょうよ」 不安げに奈菜の手を掴む力。 塩はいいのか? しかし、振り向いた奈菜はそのままクリームまみれの手で力の頬を打つ。 「りっき〜〜ッッッ!!! スイーツに必要なものは何!!??」 ペシーンと、乾いた音と共に奈菜が叫ぶ。 頬を叩かれて、呆然としていた力の瞳が先程よりも強く燃え上がる。 「はっ……! 私とした事が……そうね、そう! スイーツに必要なものは……」 がしっと、互いの腕を組み合わせて2人は声をそろえて叫んだ。 「愛!!!」 まるで、スポーツで互いの健闘を讃える選手のように、2人はとてもいい笑顔だった。 あらためて、テーブルへと向かう2人。 その手にはしょう油とケチャップが握られていた……。
ただいま調理中。しばらくお待ち下さい。
やがて、テーブルの上に2人の力作が姿を現した。 「完璧な仕上がりだわ……」 外側は極彩色……なんかはみ出してる。 「ボク達天才かもしれないね! これなら皆も大喜び間違いナシ!」 内側には、目に付いた調味料やノリで入れた食材が……。 そして無邪気に喜ぶ2人はケーキを運び出す。 今年一年お世話になった人たちへ、このケーキをご馳走するために。 ……その後、夜の街には複数の悲鳴と泣き声がこだましたという。
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