●『温もり、ほのかに』
クリスマスの夜、凛とスバルは連れ立って公園のイルミネーションを見に来ていた。 寒いのが比較的得意な凛は、小花柄が可愛らしい落ち着いた紅色の着物に真っ白なマフラーという、なかなかに風流な装い。一方、人並み以上に寒いのが苦手なスバルはニットのセーターの上に濃紺のダッフルコートをしっかりと着込んだ暖かそうな格好だ。 公園中に柔らかな輝きのイルミネーションが飾られ、キラキラと眩いくらいに輝いている。 言葉少なに、二人は大きなクリスマス・ツリーの前に佇んでいた。 色とりどりのイルミネーションで彩られ、電飾がぼんやりと光ってはゆっくりと消えて、また光るのを繰り返す。まるで冬の蛍がたくさん煌めいているかのようだ。幻想的な風景に、思わず時間を忘れてしまいそうになる。 それでも……頬に触れる空気は冷たい。唇から白い吐息が漏れるのは隠せない。 「……っくしゅん」 耐えられなくなったスバルの、小さなくしゃみ。 じっと立ち止まっているのはやはり、寒い。どんなにツリーが綺麗でもとても寒さには勝てそうにないとスバルは思う。そんなスバルの首に、温かいニットがふわりと触れた。 「わっ」 「ほら、スバル……寒いならもっとこっちにきなさい」 自分の着けていたマフラーをスバルに巻いてやり、仕方ないわね、と言うようにくすくすと優しい笑みを零している凛。 スバルの澄んだ藍の瞳がマフラーの温もりに、ホッとして緩んだ。 「……ふふ、ありがとうございます。暖かいです」 マフラーの温もりと、凛の体温が身体を温めてくれる。嬉しそうなひとつ年下の友人の表情に凛は頷いて、袖の中に引っ込んでしまっているスバルの手を取った。 「手を握っていれば、もっと暖かいですよ」 指先が触れ合って、肌の熱が伝わり合う。ほのかに、けれど確かに伝わる温もり。 寒い夜も、一緒だから楽しく過ごすことができる。 穏やかな二人のクリスマスは、静かに更けていくのだった……。
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