●『まったりなクリスマス…』
西洋から伝わった聖なる祭日、クリスマス。その過ごしかたは実に多種多様だ。 家族と静かに祝う者、友人同士で賑やかに遊ぶ者、恋人と甘いひと時を過ごす者……銀誓館学園の生徒なら、学園のあちこちで開催されているパーティーに出かける者もいるだろう。 そんな中、神武斗と華那の2人は、自室で穏やかに過ごすことにしていた。
真っ白のシンプルな壁紙の部屋。 特にクリスマスらしい飾り付けはしていないけれど、ラジオから鈴の音と共に流れてくるクリスマス・ソングが、室内を聖夜の雰囲気にするのに一役買ってくれている。 それに、と神武斗は目の前の少女を見つめる。 赤い帽子、赤いケープ、そしてミニのワンピース。すらりとした足を包むニーソックスもやはり赤。胸元を飾るリボンだけが緑色という、かわいらしい女性版サンタクロースがそこにいた。 思わず見とれて無言でいると、華那は不思議そうに――めったに開くことがないため、瞳は閉ざされたままだったが――見上げてくる。 「神武斗さん、どうかしましたか?」 「ん? ああ、なんでもないよ。ボクが想像していたよりずっと似合っていて、少し驚いただけ」 「あ……ありがとうございます」 嬉しそうに微笑む姿もまた、格別にかわいらしい。 「さて、せっかく買ってきたんだし、そろそろクリスマスケーキを食べようか」 「はい。やっぱりクリスマスにケーキは欠かせませんよね」 いそいそと座り込む華那――その姿を見て、ふと閃いた。 「そうだ、華那さん。そっちじゃなくてここに座らないか?」 「え?」
ぽん、と何かを叩く音に首を傾げる華那だったが――その正体はすぐに判明した。 「……ちょ、ちょっと恥ずかしいですね……」 「そうか? 意識してたわけじゃないけど、今日のボクの服は茶色……トナカイの色だし、サンタさんはやっぱりトナカイの上に座るものだろ」 「えっと、トナカイに引いてもらうソリに乗るんじゃあ……」 「じゃあソリ色ってことで」 「もう……」 楽しそうに言う神武斗。どうやら梃子でも譲る気はないようだと、華那は観念して背中を預けた。 「それじゃあサンタさん、一口どうぞ?」 ケーキの先端を小さく切り取って、フォークを口元に寄せる。まだ恥ずかしそうに頬を染めたままだったが、華那は大人しくケーキを食べた。 「お味はどうかな?」 「すごくおいしいです……!」 「それじゃあもう一口」 幸せそうにケーキを頬張るのを見ていると、なんだかこちらまで幸せになってくる。神武斗の頬も優しく緩んだ。
催し物なんてしなくても、日常の延長線のようにささやかなひと時があればこの上なく幸せになれる。 それはきっと、大切な人と一緒にいるから。 いつもの部屋、いつもの時間、そして少しだけ特別な格好で、2人はまったりなクリスマスを過ごすのだった。
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