八坂・茴香 & 藤原・桜

●『いただきます・・・』『あん… わたし…ケーキでは…』

 今日は二人っきりのクリスマス。
「ねえ、そこの星の飾り、取ってくれるかな?」
「これですね。はいどうぞ」
 桜の声に茴香が応える。そっと手渡そうとしたとき、ふと、手が触れ合った。
「どうか……しましたか?」
「ううん、何も」
 何も無かったように桜は星の飾りを受け取り、ツリーに乗せた。
 これで、ツリーの飾りつけは終了。
 後はケーキを食べて、それから……。

「メリークリスマス……」
「メリークリスマス……だよ」
 二人の前にあるリビングのテーブルの上。そこには美味しそうなクリスマスケーキが置かれていた。
 既に蝋燭には火が灯っている。
 雰囲気を楽しむかのように、リビングの明かりは、小さめにしてある。
 蝋燭が消えてしまっても、少しは周りが見えるように。
 桜は、隣に居る茴香に目配せすると、ふうっと蝋燭の火を消した。
 辺りは少し薄暗く、仄かに隣の茴香の姿が見えるのみ。
「いただきます……」
 桜はそういって、ケーキに手を伸ばしていく。
「ふふ……召し上が……」
 茴香の声が途中で止まった。
「きゃっ!?」
 ケーキを食べるのだとそう思った瞬間、桜は茴香に抱きついてきたのだ。
 そのまま、ソファーに押し倒すかのように、茴香の頬にキスもして。
「私はケーキじゃないですよ……」
 思わず呟く茴香の言葉に。
「知ってる……よ」
 桜は笑みを浮かべて、瞳を細める。
 仕方ないとそのまま身を委ねる茴香。けれど、その胸はこれから始まる二人の時間に期待を膨らませていた。願わくば、この胸の鼓動が、桜にはわかりませんように。
 どきどきと波打つ、この胸の鼓動が……。
「あ、愛していますよ……桜……」
「ボクも、愛してる……よ。……茴香」

(「本当はケーキを食べてからって、思っていたんだけど……ね」)
 悪戯な笑みを浮かべて、桜はゆっくりと茴香の顔に近づいていく。
 重ねられるのは、甘い唇。
 徐々に力を入れながら、きつく抱きしめた。
(「まさか、我慢できなくなっちゃうなんて……」)
 二人だけの甘い時間は、こうして始まったのであった。



イラストレーター名:MAKI