●『きらめく星に手を伸ばして』
クリスマスの夜。 テオドールとリヒターが足を踏み入れたとある広場、その中央に飾られたクリスマスツリーが優しく煌いている。 「きれいだね……!」 「あ、本当だ」 ツリーよりもきらきらと目を輝かせるリヒター。そんな表情の変化に目を細めつつ、テオドールがリヒターの手を引いた。 「もっと近くで見ようか」 「うん!」
ライトアップされたツリーは、間近で見るとやはり大きい。一生懸命見上げるリヒターは少し首がつらそうだが、てっぺんの星が気になるのか、見上げるのをやめようとしない。そして何故か、星に向かって手を伸ばし始めた。 「……届かない、よね」 分かりきっていたけれど、リヒターの身長では無理がある。寂しそうな横顔が可愛くて、何とかしてあげたくて、テオドールはそっとしゃがみこんだ。 「肩車なら届くかな?」 「い、いいの?」 目を丸くして驚きながらも肩車をされ、リヒターはぎこちなく手を伸ばす。 リヒターは、いつもわがままを言わない。だからこんなことでよければいくらでも叶えてやりたい。ちょっとしたサプライズプレゼントのようなもの。……勿論、本命のプレゼントは帰ってから渡すつもりだけれど。
当たり前だけれど今はクリスマスの夜で、自分たちは恋人同士。同じ境遇のカップルだって周囲にはたくさん居る。……けれど、そんなものは気にならない。今テオドールが見ているのはリヒターだけ。今、この瞬間、世界には二人とツリー、それから、お互いの温もりをいつもより意識させてくれる冬の冷たい空気だけ。 リヒターが懸命に手を伸ばす様子を見上げながら、テオドールは倒れないよう両足をしっかりと支えた。 もう少し。もう少しで手が届く。
「んー……!」
ちょこん。
ミトンごしに、リヒターの指先が星に触れた。 「触れた! 触れたよ!」 頭上から届いたのは、まるで本物の星でも触ったように喜ぶリヒターの歓声。それはツリーの煌きよりも、夜空の星よりも、テオドールの心を躍らせた。 (「誘って、よかった」) メリークリスマス。 どうか、この幸福な気持ちがずっと続きますように。 どうか、このぬくもりがいつまでも傍にありますように。
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