●『クリスマスデート【食】』
「んーっ! 美味しいですねこのアイス! この甘酸っぱさが何とも言えません!」 ベリーストロベリー味のアイスを食べながら、目を細める清香。 「寒い中で食べるアイスも、乙なもんだな」 ティラミス味のほのかな苦味を舌で転がしながら、清香の言葉にチェスターも頷く。 クリスマスということもあって、多くの人が行き交う人気のテーマパーク内で、仲良く身を寄せ合う二人。 チェスターと清香が付き合い始めたのは一月前のことだ。そして今日は、記念すべき初めてのちゃんとしたデート。 去年までの、独り寂しかったクリスマスよさようなら! そしてこんにちは、イチャイチャリア充のクリスマス! 今日は人生最良の日となるであろう!! そう信じてやまないチェスターだったが、そんな彼にとって、予想外の出来事が起き始める。 「あ! ポップコーン屋さんがありますよ! テーマパークときたらポップコーンですよね!」 「お、おう。確かにそうだな。じゃあ一緒に食うか!」 アイスを食べたばかりではあったが、二人で食べればすぐ無くなるだろう。そう考えてチェスターはポップコーンを買いに走ったのだが――、
「今度は肉まん屋さんが!」 「向こうにおいしそうなケバブが!」 「見てください、タコスですよタコス!」
ポップコーンを平らげた後も、容赦なしに続く食巡り。確かにこのテーマパークは食べる物も目玉の一つではあったが、それにしたって食べる量が尋常じゃない。 「次は観覧車ですね。空中で二人きりっていうのも、遊園地ならではですよね! ……あっ、あそこのクレープっておいしいって評判なんですよ! 食べなきゃ!」 ……おかしい。今日ってクリスマスだよな? 今やってるのはデートだよな? 師走のワクワク食べ歩きツアーじゃないよな?! 既に膨らみきった胃袋を抱えながら、チェスターは隣にブラックホールがあるような錯覚さえ覚える。 しかし――、 「やっぱりクレープは、定番にして王道ですね! 特にイチゴクリームの絶妙な甘さが何とも……!」 クレープを頬張りながら顔を綻ばせる清香を見ていると、自然と自分の顔も緩んでくる。微塵の色気もない、食い気ばかりが目立つデート。それでも自分の横で大好きな人が笑ってくれているのなら値千金というものだ。 ちょっと、考えてたのとは違うけど――まぁ、楽しいからいいか! 「よし。じゃあ観覧車で休憩したら、次のお目当ても食べられるな?」 「はいっ。次はシュールストレミングに挑戦したいと思います!」 「……マジで?」 「ふふっ、さすがに冗談ですよ! 引っかかりましたね?」 「おいおい驚かさないでくれよ! 血の気が引いたぜまったく……」 微笑む清香に、彼女につられて笑い出すチェスター。 幸せな空気に包まれながら、二人で過ごす初めてのクリスマスは、ゆっくりと過ぎて行く。
| |