●『煌きの夜〜一歩前進〜』
たくさんの人たちが、その道を楽しそうに歩いていた。 飾られた、色とりどりのイルミネーションは、街路樹を巻き込んでキラキラと輝いている。人のにぎわいも含めて、一帯はまるで昼間のように明るかった。 美慧と史孝の二人も、その街頭を歩く一組だ。 「ごちそうさまでした、先輩」 ぴょんと一歩前へ飛び出して、美慧が振り返って頭を下げる。その言葉に史孝は大げさな動作で腕を組んだ。 「今日はなんだか太っ腹な気分だからね」 一見すると恋人同士のようなのに、交わす会話はどことなく距離がある。並んで歩いているが少しだけ隙間も空いていた。 「これも……大切にしますっ」 先ほどもらったプレゼントを持って、彼女は満面の笑顔を向けた。 それを見た史孝。こっそりバイトを頑張った甲斐はあったと、へらりと頬を緩ませた。 (「初めて会った頃には、こうなるとは夢にも思わなかったな」) こうして歩くのも、随分と自然になった。それがくすぐったい。 美慧が少し寒そうにしていたので、自分のマフラーを外して素早く彼女に巻く。と、途端に耳まで真っ赤になって、俯いてしまった。 うん。とても可愛い。 正直な気持ちにしたがって、史孝は少し低い位置にあるその頭をくしゃくしゃと撫でた。
(「く、……」) ひどく楽しそうな史孝の様子に、美慧は赤くなった頬のままジト目で彼を見上げる。いつだって余裕があるのはあちらの方で、こちらはいっぱいいっぱいなのに。 「先輩は寒くないですか?」 「大丈夫。 でも帰って温かい鍋でも食べたいな」 「お鍋、いいですね!」 呟いた史孝の言葉に、美慧は勢いよく顔を上げる。 数秒、無言の時間が流れた。 しばらくして、彼は少しはにかみながら左手を、手のひらを上にして差し出した。 「ミケ、帰ろうか」 催促するように大きな手が数回、ネコにおいでおいでをするような形に動く。 「迷子にならないようにな」 「……迷子になんてなりませんよ」 そう言いながら、緩みそうな頬に力を入れて手を重ねる。 包まれた手はとても温かかった。 (「……恋人がいたらこんな感じなのかな?」) 隣の史孝を見上げて、ふとそんなことを思うけれど。 (「今より幸せな状態なんて想像できません……!」) 美慧は心の中で、この状況に精一杯感謝をした。
シェアハウスに帰るまで、とりとめのない会話をしながら、歩いた。 普段通りを装っても、繋いだ手につい意識がいってしまう。ぎゅっと、どちらとも無く強い力がそこに加わった。 できれば、『このまま』がずっと続きますように。 (「この手は離さないから」) (「この手は、離しません」) 同時に願った思いは、白い息と共に煌めく星空へと溶けていった。
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