●『いつも二人で笑い合える日々を』
クリスマスはやはり大事な人と過ごしたい。 しかし大事な人は戦争で負傷し、傷が癒えたばかりだとしたら──。 姫月は黎明を気遣って、クリスマス当日になっても何も言え出せずにいた。 いくら治癒したとはいえ、大事な人の体に負担は掛けたくなかったから。 黎明は、そんな彼女の心を見透かして自分の方からクリスマスを自分の部屋で一緒に過ごそうと誘った。 「温まった部屋でなら、無理に動くこともないから安心して」 彼の自宅への招き入れに少し躊躇したものの、黎明の笑顔に姫月は軽く照れながら応える。 「わかりました……では今晩、お邪魔しますね?」
約束通りに姫月は黎明の部屋へやってきた。手作りのケーキを携えて。 初めて入った彼の部屋は落ち着かなくて、きょろきょろしていると一冊のアルバムが姫月の目に留まり興味を抱く。 黎明に見てもいいかと問うと、恥ずかしそうにしながらもアルバムを取り出してきた。 小さなソファーに二人並んで座り、アルバムを広げ眺める。 一枚の写真が姫月の心を掴んだ。 「小さい頃の黎明さん……かわいい……っ」 幼い頃の彼の写真にはしゃぐ姫月と恥ずかしそうに顔に手を置く黎明。 「いや、可愛いって言われても……」 照れ隠しに姫月が作って来たケーキを食べる黎明。 そんな彼の姿に、姫月は更に笑みを深くした。 その後のページも、姫月にとっては宝石箱のようだった。 見たことのない黎明の過去は、可愛くて格好よくて微笑ましくて、時も忘れて見入ってしまう。 「このアルバムがもっと埋まるようにしよう」 黎明の突然の言葉に、姫月は顔を上げきょとんとした。 しかしすぐに意味を理解し、優しげに笑って頷く。 「はい……二人の想いで……来年も、その先も……いっぱい作っていきたいです……」 「うん、埋めよう。笑顔ばかりのアルバムにしよう」 幸せそうに笑い合いながら肩を寄せ合う二人。 照らされた部屋の窓に、二人のシルエットがそっと重なり合い、静かに夜は更けて行った──。
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