●『甘い甘い吐息と共に』
クリスマスパーティの終わった部屋の中は、先程までの賑わいが嘘のように静まり返っていた。 天井のライトは絞られ、ただ部屋の隅にあるスタンドライトだけがひっそりと灯っている。まるで窓の外の静かな闇が、部屋の中にまで忍び込んできたかのよう。 ラウレスは未だパーティの時のサンタ服を脱いでいなかった。こう静かだと、自分が本物のサンタクロースにでもなったような気がしてくる。 ましてや部屋の中には、眠り人が一人。 散らかった部屋の中を片づけながらふとリビングに目をやると、そこにはソファーに身を沈め、眠りこんでいる琳琅がいた。 (「……夜はまだこれからだと言うのに」) あまりに気持ちよさそうなその寝顔に、ラウレスはそっと笑いを漏らす。 普段ボーイッシュな彼女も、今日ばかりは可愛らしい格好をしていた。タータンチェックのミニスカートからは、すらりとした足が伸びている。 「流石にお疲れになりましたか……しかし相変わらず無防備ですね……」 ラウレスは苦笑すると、彼女から受け取ったプレゼントに目を落とした。
琳琅とラウレスは、現在一緒に住んでいる。 ここ数日、琳琅の部屋は夜遅くまで明かりが点いていることが多かった。不思議に思いはしたが、部屋に入ろうとすれば全力で拒まれ、何をしているのか尋ねればはぐらかされる。彼女が何をしていたのか、ラウレスはとうとう教えてもらえなかった。
「まさかこれを編んでくださっていたとは……」 先程彼女に貰ったプレゼント。それは手編みの手袋だった。 どうやら初挑戦だったらしく、所々編み目が飛んでいる。しかしその不器用さも愛しく、何より彼女が自分のために頑張ってくれたということが、ラウレスには嬉しかった。 ラウレスは手袋を手にはめ、眠る琳琅の傍らにそっと立った。 「ずっと……大切にいたします」 彼女の眠りを邪魔しないよう、小さな声で、誓いを立てるように呟く。 「この手袋も貴女も……私の大切な宝物ですから」 琳琅は眠り続けている。無邪気に、幸せそうな表情で。 ラウレスはポケットからラッピングされた小箱を取り出した。中身は、美しい紫色の宝玉がついたドロップピアスだ。きっとその色は、彼女の白い肌に映えることだろう。 「喜んで頂けたらよいのですが」 ラウレスは微笑み、眠る琳琅に覆いかぶさるようにして、その唇にそっとキスをした。 甘い甘い吐息と共に。
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