●『くりすます修行』
「桐生さん、どちらへ?」 どこかへ出かけようとしているアギトを見かけ、そう青葉は呼びかけた。 今日はクリスマス。何か予定でもあるのだろうか? 「ああ、修行だ」 だが、彼の予定は特にそれと関係が無かったらしい。ゴーストタウンに行くのだと言うアギトに、なんだからしいな、と青葉は思う。 「じゃあ、ご一緒していいですか?」 幸せなクリスマスを過ごす事は、なんだか自分には分不相応のような気がして……。だから青葉にとっても、丁度いい話だったのだ。 (「それに、桐生さんのお手伝いが出来たら……」) 小さく微笑む青葉に、アギトは物好きだなと笑った。
そうして2人が訪れたのは新戎地下街。かつてマダム通天閣がいたという一角に踏み込んだ2人は、大きな張り紙があるのを見つけた。 「……なんだこれは」 そう絶句するアギトの隣で、青葉もまばたきする。
『マダム通天閣の12星座占い 仕事運 ★ 金運 ★ クリスマス運 ★★★★★
めりーくりすます 箱が落ちてたら要ちぇっく』
「クリスマス運ってなんだ……」 「とにかく箱に注意、ということでしょうか……?」 2人は思わず首を傾げる。紙が真新しい所を見ると、少し前に訪れた何者かの仕業だろうか。 (「……わかんねぇ……」) アギトは犯人が誰なのか考えるのを諦めた。こういうのをやりそうな奴に、心当たりがあり過ぎる。 「とにかく、行こうぜ」 気を取り直して歩き出した2人だが、不思議とゴーストに遭遇しない。静まり返った地下街を進み、やがて踏み込んだ部屋の片隅に――あった。 箱が。 それもクリスマスっぽいラッピングのやつが。 「あ、何か紙がありますよ。ええと……プレゼントは一人1個まで」 「なんだそりゃ」 脱力するアギト。……とりあえず適当に1つずつ選んで持って行く事にして。 「なっ」 「ケーキ、ですね」 先へ進めば、今度は様々なホールケーキが並んでいる。 「ケーキ食べ放題可。されど腹八分を心得るべし……だとよ」 「た、食べましょうか? ……勿体無いですし」 おずおずと2人はフォークに手を伸ばす。……ちなみにケーキは、とんでもなく美味しかった。
不思議な出来事に見舞われつつも先へ進む2人。だが、次に彼らを待っていたのは……。 『この先ゴーストいるから危険!(出来れば引き返して)』 2人は沈黙と共に見つめあった。 どうしよう? 「……帰るか」 溜息をつくアギトに、青葉も頷き返す。 これも何かの修行の一環なのだろう、そうに違いない、とアギトは己に言い聞かせる。……背後に、なんとなく誰かの気配を感じるが……。 (「今日は追及しないでおくか……」) きっと、思いやってくれての事だろうから。そうアギトは思う。
「ところで、中身はなんでしょうね?」 「外に出たら開けてみるか」 怪訝そうにプレゼントの箱を見ている青葉に、そう返して。アギト達は静かなゴーストタウンを引き返していく。
――まあ、たまにはこういうのもいいか。
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