●『俺たちの幸せな日々』
コンクリートは所々欠けて、フェンスは形も残ってはいない。 そんな荒れ果てたビルの屋上に座り込む人影が2つ。 屋上から街を見下ろせば、きらめくイルミネーションが2人の目に映った。 遠い光に照らされて、2人の姿が照明も無い屋上でぼんやりと見える。 2人とも服はぼろぼろで、所々に傷を負っているが見えた。 今まさに、ゴーストとの激しい戦闘を終えた後のような格好だ。 「クリスマスの夜もゴーストタウン巡り。何やってんだ、俺ら」 直人が半ば呆れながら隣に座る相棒を見ると。 にやりと笑いながら、春一が真四角の箱を直人との間に置くところだった。 仏頂面の直人の前で、箱の蓋が開かれる。 箱の中に入っていたのは真っ白なケーキ。クリスマス用のデコレーションが施された、クリスマスケーキだ。 突然のケーキの登場に呆れ顔の直人の前に春一がぬっと、腕を突き出す。 その手首には銀色の時計、2人が交換した腕時計だ。 直人も時分の手首の腕時計を見て、春一の意図を察したのか、ゆっくりと腕を上げると、時計同士を軽くぶつけ合う。 「……メリークリスマス!」 「……メリークリスマス」 満面の笑みを浮かべた春一に1泊遅れて、直人も今日を祝う言葉を贈る。 ケーキはあるが、フォークが無いので、2人は文字通りにケーキに手を伸ばす。 「ッつーか篠田、どっから持って来たんだよこのケーキ。まぁ、こう言うクリスマスパーティも悪くねーか」 手づかみでケーキを食いながら、2人で街の明りを眺める。 あの光の下では、きっとにぎやかなパーティが繰り広げられているに違いない。 それに比べて、ここには明りもなければ、ごちそうも無い。 崩れかけたコンクリートに、真っ白なケーキ。しかも手づかみ。 「俺ららしいぜ」 ケーキを食いながら直人の頬が緩む。 目ざとくそれを見つけた春一も、ケーキを頬張りつつも笑う。 しっかりと口の中身を飲み込んで、春一が直人のほうへ笑顔を向ける。 「……来年も宜しくな? 相棒」 まっすぐな視線に、小さく頷いて直人はケーキに手を伸ばす。 「……ケーキ美味ぇ」 照れ隠しのような彼の仕草に、春一が今度は爆笑する。 何はなくとも、2人が揃っていれば、賑やかで。 それはきっと楽しいクリスマスパーティ。 ささやかながら、もかけがえの無い、幸せな時間。
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