朝生・ひむか & ナラカ・ノワール

●『ずっとの約束』

「何処か、行くか」
 今年のクリスマスは、珍しい……本当に珍しい、ナラカの一言から始まった。いつも何処かに遊びに行くときに誘うのはひむかばかり。ナラカがそんなことを言い出すなんて、と思わず目を丸くしてしまう。
「じゃあ、カフェでお茶してお散歩しよう!」
 嬉しいナラカからのお誘いに、ひむかが提案したのはいつも通りの過ごし方。ナラカを連れて、クリスマスの街へと繰り出した。

 カフェでの美味しいティータイムを過ごし、キラキラとイルミネーションの輝く並木道を、のんびりと二人連れ立って歩く。
 にこにこ満足げなひむかと、少々不満げなナラカ。
「何時でも出来るだろ、こんなこと……」
「こーやって、一緒にいて遊んだりするのが楽しいんだよ」
 本当に、楽しそうに笑う。
 その視界に、広場の大きなクリスマスツリーが映り込んだ。イルミネーションに負けないくらい瞳を輝かせて、ひむかは走り出した。
「おい、ひむかっ」
 慌てて後を追うナラカ。
 大きな大きなツリーの根元で、綺麗だ、とはしゃぐひむか。ツリーは本当に大きくて、下から見上げると、天に届くんじゃないかと思うほどだ。
 そんな嬉しそうなひむかをぼんやりと眺めながら、ナラカはふと彼女の家のことを思い出す。
 いつか居なくなってしまうんじゃないか……そんな不安が、ひむかの態度から感じられることがある。彼女は全く意識していないのだろうけれど。
 いつも楽しそうに笑うひむか。悲しい顔を見せることはない。
 笑顔を見られるのも嬉しいけれど、苦しみも悲しみも全部含めて、もっとちゃんと彼女を支えたい。力になりたい。そう思うのと同時に、なんだか腹立たしくなってくる。
 寂しさや、苦しさを、もっと表に出してくれればいいのに。
 キラキラと輝くクリスマスツリーに見惚れているひむかを、思わず後ろから抱き締めた。
「わ、ナラカ?」
 驚くひむか。その白い額にそっとキスをする。

 少しずつ、けれど確実に近付く二人の距離。
 すぐ近くに、大好きな人の温かいぬくもりがある。
 そして、来年のクリスマスにはもっともっと、この距離が縮まればいい。
 ……これからもずっと、一緒に居られますように。



イラストレーター名:金子卓生