イセス・ストロームガルド & 守崎・汐音

●『右手の指輪に約束を』

 雪が降る中、1本の大きなモミの木の下に、2人はいた。
 2人にとって、思い出の場所。去年のクリスマス、この場所で、2人はキスをした。それから、もう1年が経つ。
 イセスは、汐音にプロポーズした日のことを思い出していた。汐音の事情を聞いて、彼女を守りたいと思った。抗えない孤独と寂しさから、汐音をずっと守りたい……。そんな想いから、彼女とずっと一緒にいたいと思い……プロポーズした日のこと。
「返事は4年後だ」
 汐音は、少し頬を赤く染めてそう答えた。それは、少なくとも4年後までは一緒にいるという約束なのだろう。
 イセスが汐音のために用意したクリスマスプレゼントを取り出す。それは、ルビーの指輪。4年後まで一緒にいてくれるつもりの彼女への、少し早い贈り物。いわゆる、婚約指輪というものだ。それを受け取った汐音は、黙ったまま右手の薬指に嵌める。この指輪は、左手の薬指には嵌めない。嵌めるべきではない。なぜなら、そこは本物を嵌めるべき場所だから。4年後に贈られるはずの、本当に2人の永遠を誓う指輪を……。
 その様子を見て、穏やかに微笑んでいるイセスに、汐音が小さな箱を差し出した。受け取ったイセスが開けてみると、それはイセスが欲しがっていたガラス細工。嬉しそうに笑ったイセスが、お礼を言おうと口を開く。しかし、何も言うことができなかった。
 なぜなら……その前に、汐音がイセスの唇を、自分の唇で塞いでしまったから。真っ赤な顔で、少し背伸びをして。そして、唇を離して寒さからか恥ずかしさからか少し震えている汐音を、イセスは優しく微笑んでそっと抱き寄せた。
「笑って、汐音さん」
 汐音の笑顔は、心の底から安堵している時にしか見せない。イセスに身を委ねている時にしか……。
 汐音に笑ってほしい。つまり、身も心も委ねて、キスを喜んで……と、イセスは汐音に伝えたかった。
 その気持ちが伝わったのだろう。もう一度、自分からキスをした汐音の表情。それは……華の咲きほころぶような、優しく明るいとびっきりの笑顔だったのだから。



イラストレーター名:水名羽海