●『二人の距離は…』
寒い。 流華は冬の町を歩きつつ、冬の寒さを感じていた。 彼女の隣で歩いているのは、ヨシキ。彼とこうやって一緒に居るのは、とても楽しいひととき。 けれど……それ以上に踏み込むのは、まだちょっと恥ずかしい。 今宵はクリスマスイブ、そして行われたクリスマスパーティー。 それに参加した帰り道。 本当は、もう少しだけ一緒にいたいところだが、じきに彼とは別れてしまう。プレゼントを渡したいと思っていても、どうしても手渡せない。そのタイミングがつかめない。 そもそも、彼からは以前に一度告白されている。けれど、まだ恋人と呼ぶような仲になるのは、流華自身抵抗があった。 一歩踏み込むのは、まだちょっと怖い。まだちょっと、恥ずかしい。 だが、 「流華」 白いクリスマスツリーの前で、流華は呼び止められた。 「……? は、はいっ」 ややびっくりした口調で返答し、思わず立ち止まる 「流華。手、出して」 「え?」 言われるままに、流華は左腕を伸ばした。 伸ばしてから自分の行為を知り、流華は自分の頬が熱くなるのを感じた。照れを隠そうと視線をそらし、手をぎゅっと握ってしまう。 ヨシキはその手を取りつつ、にっこりした。 「メリークリスマス、流華」 彼はもう片方の手で、いつの間にか取り出したそれを……光を反射して輝くそれを、流華の左手首に付けた。 それは、ブレスレット。細いシルバーのチェーンに、雪の結晶の形をしたラピスラズリがあしらわれている。美しい雪がそのまま固まり、装飾品と化してここに在るかのような意匠。色白な流華の肌に、その銀色と瑠璃色の装飾はとても良く映える。本当にそれは、彼女に似合っていた。 「今年のクリスマス、楽しかったぜ。このプレゼント、気に入ってくれるか分からないが……受け取ってくれ」 「あ……」 頬が更に熱くなり、心臓が更に激しく高鳴る。雪がちらつく寒さなのに、その寒さを感じさせないほどに、熱い。 恥ずかしい、とっても恥ずかしい。 けど、それ以上に……嬉しい。 「……ヨシキさん」 流華は、自分の口からそんな言葉が出るのを聞いた。 おずおずと差し出したのは……右手に持った、マフラー。黒と白の毛糸で編まれたそれは、まるで二人を、ヨシキと流華を編みこんでいるかのよう。 黒と白。流華はツートンカラーのマフラーを、ふわりとヨシキへ巻きつけた。 「流華……?」 驚いた表情を浮かべたヨシキだが、すぐに微笑みをうかべる。 「ありがとう、流華」 それに返すように、流華もまた微笑んだ。 「……メリー、クリスマス。ヨシキさん」 頬はますます熱いけれど、とてもいい気分。とても、楽しい気分。 「メリークリスマス、流華」 愛しげな手つきで、ヨシキはマフラーを撫でた。 流華の胸のうちには、ヨシキに少しだけ近づけたという実感が、広がっていた。 そんな二人を祝福するかのように、ツリーが放つ白い光が、流華とヨシキの周囲で舞っていた。
| |