岸田・務 & 渚砂・魅

●『特別な日と、いつもの二人』

 キラキラとした色鮮やかなイルミネーションの輝く街を歩く。今日はクリスマス。そう、一年に一度の特別な日。二人並んで歩くその姿は一見どこにでもいる恋人同士のようだ。
 しかし、岸田・務と渚砂・魅、この二人は特に何かクリスマスらしいことをするわけでもなく、ただ、並んで歩いているだけ。「恋人」ではなく、「信頼や戦友」、そんな感情で結ばれている二人は、いつもどおりの他愛のない話をしながら、いつもと変わらない日常の一端としてクリスマスの街角を歩く。

「あれ?」
「……キレイ……」
 並木道に差し掛かったところでふいに並んで歩いていたはずの魅の姿が務の隣から消え、少し後方からそんな小さな感嘆の声が聞こえてきた。
 この通りは両側に続く樹々に金色の電飾が施され、おごそかな光の道となっている。立ち止まった魅に気付いていなかった務はその声に振り返り、大股に彼女の隣に戻った。
「何?」
 言いながらその視線をたどり、同じように空を見上げる。途端、ふわりと冷たいものが務の頬に触れた。雪が、降ってきた。白い粉雪が、高い空からはらりはらりと落ちてくる。
「(どうりで冷え込むはずだ)」
 そう思いながら務が何気なく魅を見やると、彼女は空を見上げたままその光景に魅入っていた。眼鏡の向こうの大きな瞳が、何ともうれしそうにきれいに輝いている。
「……」
 クリスマスイルミネーションと舞い落ちる雪とのコラボレーションを鑑賞する魅を、務はぼんやりと見つめる。その瞳からはこれといった感情は読み取れない。
 雪のかけらは徐々に大きくなってゆく。このままだとすぐに街は白で覆われるだろう。今日はホワイトクリスマスになりそうだな、と何となく務は思った。
 空を見上げる魅と、魅を見つめる務。ほんの少しいつもと違う何か。クリスマスの夜は小さな魔法を二人にかける。

「そろそろ行こう、風邪をひく」
「そうだね……」
 務の言葉に魅は少し名残惜しげにそう言って、ふたたび歩き始める。手をつなぐでもなく、ましてや腕を組むわけでもなく。先ほどまでとなんら変わらず二人並んで並木道を後にする。
 こんな二人の距離は果たして近づくのであろうか? それは二人にしかわからないことだけど。ただ一つ確かなことは務は魅を見つめているということ。それが今ある真実。
 どこからか聞きなじんだこの時期特有の軽快なメロディが流れてくる。今日はクリスマス。一年に一度の特別な日。メリークリスマス。二人にたくさんの幸せが訪れますように……。



イラストレーター名:さとをみどり