●『二人肩寄せあい〜星降る聖夜の一幕〜』
誰しもが特別な思いを抱く日の一つ。藍色の空は星々が彩り、街並みもまた、イルミネーションが輝く。光の海と化した夜の街に、少年と少女が過ごしていた。 「今年は遅れなくてよかったよ。去年はそれでびっくりさせられたからね……今年は勘弁してよ?」 昨年も共に過ごした日の事を思い起こし、涼介は少しだけ苦笑交じりに少女に呼びかける。 「涼介さんのあの時の驚いた顔は今でも覚えていますよ?」 そんな彼に、鏡華もまた、当時を思い起こして微笑んだ。 「う……、そ、それよりも、見て、どこも綺麗だよ」 涼介がイルミネーションを指差してみせると、鏡華もほぅっと溜息をついた。 「ほんとに綺麗ですね。町のみんなも幸せそうでうれしいのです」 街には、彼らと同じように過ごすカップルや、温かい家族の姿がある。鏡華の言葉に、涼介はうんうんと頷いてから、冬の冷気にぶるっと震えた。 (「しかし寒い寒い。僕はともかく、これじゃ鏡華がかわいそうだ。何か温まるいい方法ないかな」) 彼がそう考えている一方。 (「涼介さん、寒そう。でも、去年のようにマフラーをかけてあげられないですし、どうしよう」) 鏡華はというとそう考えていた。二人ともがそれぞれにしばし悩んだ結果、涼介ではなく鏡華の方に名案が浮かんだ。 「あ、そうです!」 アイデアをすぐさま実行に移す彼女に涼介が慌てふためく。 「ちょ!? 鏡華、人目があるよ!?」 彼の言葉には構わず、鏡華はそのまま涼介のコートに潜り込み、ぴょこんと顔だけを出し、満足げに微笑んだ。前々から一度こうしてみたかったと思っていたのは、鏡華自身だけの秘密だ。 「こうすれば二人ともあったかなのです」 嬉し恥ずかしな涼介であったが、そんな彼女を愛おしく感じ、コートの中の彼女をそのまま抱きしめる。互いのぬくもりと、早鐘のような鼓動が二人の身体を熱くしていた。 暫くそうしていた二人であったが、不意に涼介が鏡華の前にそっと可愛くラッピングされた包みを差し出した。 「これ、プレゼント。手縫いだからたくさん失敗して変になったけど、受け取ってくれるかな?」 「わあ、ありがとう。涼介さんがいつも一生懸命なのは知ってますから嬉しいです」 大事そうに受け取った鏡華はというと、小さな箱を取り出した。 「僕のはアンクレットなのです、これで涼介さんはもっとかっこよくなるのです」 鏡華が彼のために頑張って選んだ贈り物を、涼介につけてやる。 「ありがとう、……あ、流星だ!」 ふと視界の端によぎったものを涼介が指差すと、鏡華もすぐさま顔を上げた。 「ほんとなのです! 早くお願い言わないと!」 「どうかまた二人で……」 「涼介さんと」 次の瞬間、二人の声が綺麗に揃う。 「ううんずっと一緒にいられますように」 思わず二人が顔を見合わせる。微笑むと、涼介はそっと鏡華を抱き寄せ、囁いた。 「大好きだよ鏡華、これからもよろしくね」 今年もまだ、二人だけの夜は続く。
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