●『待雪草〜楽しい予告〜』
今日はクリスマス。 日も暮れて夜の木枯らしが吹いても、街は活気に包まれたままだ。 それでも人気のない場所もある。 この公園の一角も、聖夜の喧噪の遠い、静かな場所だった。
人ひとり通らず、街灯が淋しげに光るその場所に、ひとりの少女が姿を現わす。 きょろきょろとあたりの様子を覗いつつ、少女――帆波・聖(曼珠沙華の泪・b00633)は手頃なベンチに腰掛け、自分のお腹の方に話しかけた。 「ここなら出てきても大丈夫だよ?」 よく見ると、聖のお腹あたりが膨れている。その部分がもごもごとなにやら動いたと思うと、もきゅっという鳴き声と共に白い塊が聖のコートの合わせ部分から顔を出した。 聖の真グレートモーラットである藤だ。聖とおそろいの髪飾りが灯りの下で揺れる。 「ごめんね、藤にはいつも不自由な思いさせて……」 少し悲しげに話しかける聖の言葉に、藤ももきゅ、と目を伏せる。 申し訳なさが伝わってしまったのだろう。ちょっと気まずい雰囲気になりそうだったので、聖は話題を変えることにした。 「大丈夫? 寒くない?」 ぷるぷると首を振って答えた藤は、もきゅもきゅと聖に何事かを尋ねたようだ。 「え? 私は大丈夫だよ♪ 藤が暖かいから」 そう言うと、聖はぎゅっと藤を抱きしめた。こんな風にしっかりとコミュニケーションが取れるのはふたりの絆があるからこそに違いない。 藤は抱きしめられて照れくさかったのか、しばらく視線を左右に泳がせていた。しかし何かに気付くと、その小さな手を上に伸ばしながら、もきゅっもきゅっと聖に何かを伝えようと何度も語りかけはじめた。すぐに聖もそれに気付いて、藤の手が示す方を見上げる。 「あ、雪だ……」 はらはらと舞い降りる白い結晶。それは街灯の光を受けて煌めき、幻想的な夜を演出していた。 「ホワイトクリスマスだなんて素敵♪」 神様からの贈り物かな?と、聖は喜びに声を上げ、藤もまた、しんしんと降りだした雪にもきゅもきゅとはしゃいでいる。 「藤と一緒のクリスマスにいい思い出が出来たね♪」 聖はもう一度、藤をしっかりと抱きしめる。 そして、白き祝福がなされた聖なる夜に誓いを立てるように、腕の中の小さくとも大事なパートナーに想いを告げた。
「これからも私たちずっとずっと一緒にいようね!」
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