竜桜院・エレナ & 水鏡・白都

●『暁の伯爵と夜の女王の密会』

 学園の体育館を貸し切りにして開かれた、クリスマスイヴの仮面舞踏会。
 マスクを付けて顔を隠し、互いに素性を明かさないのが唯一のルール。
 エレナは一夜限りの名前として、『夜の女王』になった。男女で入り口が違うために、会場に入ってしまえば共に参加した相手をまず探さなければならない。
 お目当ての相手は、もちろん白都──『暁の伯爵』だ。
 仮装していてもマスクで顔を隠しても、すぐにふたりはお互いを見つけた。そのことが嬉しくて、少しだけの会話を交わしてお互いの気持ちを告げ合ったあと、
「メリークリスマス」
 グラスを合わせて、ふたりは微笑み合う。
 華やかに飾り付けられた室内に、ドレスの花が輪を描く。仮面はときおり奇抜なデザインのものもあって目を引いたが、誰もが幸せそうに輝いている目を覗かせている。
 エレナと白都──否、夜の女王と暁の伯爵も、しばらくダンスと、ふたりで過ごす時間を楽しんだ。
 確かに感じられる相手の体温に、エレナの胸は締め付けられる思いだ。
 少ししてからダンスを抜けて、ふたりは会場の隅に用意されたテーブルへと向かった。そこにはクリスマスらしいご馳走と、ノンアルコールのボトルやグラスが用意されている。
 エレナが椅子にふわりと腰掛け、白都は透明な液体を注いだグラスを彼女に差し出す。
 それから互いにマスクをそっと外して、秘密の逢瀬に微笑んだ。
 彼となかなか会えなくなって募るばかりだった寂しさも切なさも、こうしてふたりで過ごしているだけで、嘘のように溶けていく。
 代わりに心を満たすのは、どうしようもない喜びと、甘いばかりの幸せ。
 つ、とエレナは立ち上がり、首を傾げて見上げてくる白都に構わず背後に回り、ゆっくりと彼の首に腕を回して抱きついた。
「お願い。どんな時でも、決して離れないって私に誓って欲しいの」
 歌うように告げた台詞に、白都は目を丸くする。
 白都のその表情に、心を満たしていた幸せに陶酔しきっていたエレナは、はたりと気付いた。
(「私ったらなんて大胆なことを……!」)
 ぱぁっと紅潮する頬。急に恥ずかしくなって逃げようとしたエレナの腕を、けれど白都が掴んだ。
「今度は逃がさない」
 驚いたエレナが白都を振り向くと、彼はまっすぐに彼女を見つめたまま、静かに立ち上がる。そして、
「どんな時でも、離れない……」
 そう囁くと、エレナの肩を抱き締めた。
 再び、心をいっぱいにしていく、幸せ。
 エレナは赤い頬のままで、彼の胸に顔をうずめるようにして肯いた。



イラストレーター名:カリハ