覚羅・葵 & 相馬・真理

●『何よりも幸せなあまいあじ』

 クリスマスデートにふさわしい、薔薇園の中に設置された喫茶店。
 ライトアップされた薔薇に囲まれたそこは、ロマンチックな雰囲気を醸し出す。
(「真理が幸せそうにしてるのはいつ見ても幸せだな……」)
 葵は先程から隣でぱくぱくとケーキを食べ進める真理を見て和む。
 小柄で、まるで年上には見えないような愛らしい姿をしている彼女が、特にこうして食べ物を食べているときなどは、本当に何かの小動物のようで。
(「それにしても美味しそうに食べるよな……って」)
 真理の口の端に、ケーキのクリームが付いていた。真理はどうやらそれに気付かずケーキに夢中だ。
 もっとも真理としては、葵が甘いものが苦手だといってなかなか食べないのが寂しくて、その分いっぱい食べようとしているのだが。そして、葵がじっと見つめてきているのに気付いて少し恥ずかしそうに眉を下げた。
 そんな姿を見て葵はくすりと笑み、
「真理、ちょっと手を止めてもらえるか?」
「えと、はい……な、なんで、しょう……?」
 葵の手が真理の頬に伸び、真理はその手を見ながら何をされるのかとドキドキ胸を高鳴らせて待つ。葵はそのまま指先でクリームを絡めとると自分の口に運び、ぺろりと舐めとった。
「はわ……」
 クリーム付いてたのが恥ずかしいのか、拭われたことが恥ずかしいのか、葵の行動に見とれていたのが恥ずかしいのか、もはやよく分からなかったけれど、そうされたことで真理の顔がみるみる赤く染まっていく。
「はは、甘い物は苦手だけど、真理の今の表情とかが見れるなら幾らでも食べれそうだ」
 葵は自分の唇を舐めて続ける。
「しっかしこのクリーム美味しいな……真理、おかわりもらえるか?」
「な、何、言って、るん、です、か……っ。葵くんの、ばかっ」
 真っ赤な顔で真理が言って、照れ隠しに再度ケーキをぱくついた。が。
(「ぁ、葵くん、が、へ、変な、事、言うから、全然、ケーキの味、わかんなく、なっちゃったじゃ、ないです、かっ!」)
 もごもごと口の中でケーキを転がして、無理矢理飲み込んで。
「ホントに、もう……ばかばか、ばかっ!」
 目をぎゅっとつむって一生懸命反抗する真理に、葵はまたくすくす笑う。
(「ちょっと意地悪だったかな、でも真理が可愛いから、つい意地悪したくなるんだよな……」)
 端から見ればバカップル以外の何者でもなかったけれど。真理の反抗はしばらく続いたそうな。



イラストレーター名:蜜来満貴