●『あなたと過ごす二度目の聖夜』
聖夜に夜景を見に行こう。 そう、約束をして迎えた、12月24日の夜。 コノハは、駅の前でやみぴを待っていた。 「コノハー!」 聞こえてきた声。 振り向くと、やみぴが走りながら手を振っていた。 「ごめん、お待たせー! あ、こんばんは!」 コノハの前まで走ってきて、息を乱れさせながらそう挨拶してくるやみぴを見て、コノハは小さく笑った。 「ううん、ボクも今来たところだよ」 コノハはやみぴにそう言って、「こんばんは」と挨拶を返して、その手を握る。 「さ、行こう」 ずっと楽しみにしていた今日、彼女はそれ以上待ちきれず歩き始めた。 やみぴも、何も尋ねようとはせず、微笑み返して彼女の横を歩く。 聖夜の街はクリスマス色に飾り立てられて、夜だというのになんとも明るい。 周りを見ればカップル連ればかりが目立つ。そんな街の通りを、二人は足早に歩いて目的地の公園を目指した。 大通りを抜けて、細道に入り、すっかり静かになった道をもう少しだけ歩く。 「さぁ、着いたよ」 やみぴが示したその場所は、坂道の上にある小さな公園だった。 「ねぇ、どこなの? 早く早く」 「わわっ、コノハ、慌てないでも大丈夫だから〜」 はしゃぐコノハに手を引っ張られ驚くやみぴだったが、そんなコノハもまた可愛いと思ってしまうのは、正しい評価なのか惚れた弱みなのか。 手を繋いだまま、二人は公園の奥へと向かう。 公園の中は静かで、そこに植えられた木にはささやかながらクリスマスの飾り付けがなされている。その奥に、約束の景色があった。 「うわぁ……」 コノハが、小さく唸った。 宝石箱をひっくり返したような、という言葉がある。目の前の景色はまさにそれだった。 「ようこそ、お嬢様」 「ふぇ?」 抜けた声を出すコノハに笑いかけて、やみぴは「お誕生日おめでとう」と言った。 今日は、コノハの誕生日だった。 目の前の景色は、やみぴからのささやかな、そして最高のバースデープレゼント。 「……ありがとう」 コノハが少し俯いて、手の繋ぎ方を変えた。ただ繋いでいるのではなく、指をしっかりと絡ませ握り合う繋ぎ方へ。 「学園はどこかなー?」 探し始めるやみぴの顔は、コノハのすぐ近くにあった。 「あ、ねぇねぇ、やみぴ」 「え……?」 振り向いたやみぴの顔にそっと手を当てて、コノハは背伸びをして彼の唇に自分の唇を重ねた。 やみぴが身を強張らせるのが伝わってきた。けれど、彼は身を引くことなく、包むようにコノハを抱きしめた。 夜に瞬く景色を前に、二人は熱いキスを交わす。それが何よりのお互いへのプレゼント。 メリークリスマス&ハッピーバースデイ。
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