●『不器用なクリスマスの過ごし方』
クリスマスらしく、いつもに比べて少しばかり豪華な夕食とケーキを食べ終えた二人はコタツでくつろいでいる。 「あの、重時さん?」 「ん?」 穏やかに流れる時間を断ち切って、伊織がのんびりと本を眺めている重時に声をかける。 「今日はクリスマスですよ?」 「うん、知ってる」 会話のとっかかりで終わってしまった。 本の内容に注意が向いているのか、気のない返事ばかりを繰り返す重時に苛立つ伊織。 ほんとうはクリスマスプレゼントが欲しいのだが、直接言うと負けたような気がするため、遠回りに催促しているのだ。 とはいえ、感づいてくれるどころか、話も耳に入っていない様子ではどうしようもない。 「だから、あの」 「ん……?」 「クリスマスといえば、まだイベントがあると思うのです」 「……んー、あったかなー」 「そうですよ」 「そうかー。でももう夜遅いし、次回にとって置いたらどうかな?」 「――もうっ、いいです。寝ます!」 諦めず何度か話しかけ、ついには直に言ってしまおうかとも思ったのだが、あまりに聞き流されるのでとうとう感情を爆発させてしまう。 声を荒げた伊織は、そのままコタツで不貞寝を決め込むのだった。 重時が体を冷やさないようにと毛布をかけてくれるも、無視してしまう。 「…………」 静かになった部屋の中で、重時がページをめくる音だけが響いている。 「…………」 どうやら本当に寝てしまったらしく、伊織の寝息が聞こえてきた。 重時はゆっくりとコタツから抜け出し、伊織を起こさないように注意しつつプレゼントを置く。 「直接渡すのはちと恥ずかしくてなぁ、意気地なしでごめんな」 「ん、ぅ……」 返事をするように伊織が寝息をもらし、寝返りを打つ。 しばらく少女の様子を眺めたあと読書に戻ろうとした重時だったが、そのままにしておくと伊織が風邪を引くかもしれないと思い直し、布団を敷いてそこに寝かせることにする。 「これでよし……と。……ん?」 枕元にプレゼントを置きなおし、一息ついた重時がふと気付く。 「……今日どこで寝よう?」 今度客用の布団を買わなければと思いつつ、仕方なしにコタツで寝る重時だったが。 自身が危惧したとおりに風邪を引いてしまい、プレゼントを貰えて嬉しげな伊織に熱心に看病されるのだった……。
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