●『Sweet Christmas』
クリスマスは家の中で恋人とふたり。今日はふたりっきりで聖なる日を祝おう。 ……と、思ったものの。だからといって特に変わったこともなく。明彦とハディードは並んでソファに座って、借りてきたDVDなんかを見ている。 一本見終わった時点で明彦がハディードに向き直った。 「ハディ、クリスマスだしケーキを作ってみないか?」 「ケーキ、ですか?」 唐突な提案にハディードは小さく首をひねる。 「あきって、ケーキ好きでしたっけ?」 「好きだ」 「!」 「なんだ、おかしいか?」 しかめっつらをして問い返す明彦にハディードは慌てて首を左右に振った。 「い、いえ。あきは料理得意ですからね。ケーキ、作りましょう」 好きだ、と言われてハディードは心の中で慌てていた。顔が赤くなってないか気になってそわそわする。自意識過剰ではないはずなのだが、『好きだ』という旋律にどうしてか照れてしまう。 「よーっし、レッツケーキクッキン♪」 明彦はキッチンへ向かうと手馴れた感じでてきぱきと道具を揃え、ハディードには白いエプロンを渡し、自分は青のエプロンを装着する。 「わたしは何をしましょうか?」 「ハディはこいつを泡立ててくれ」 生クリームの入ったボールと泡立て器を渡され、ハディードはかしゃかしゃと泡立て始めた。 「なんかちょっと冷えてきたな」 「あー、外雪降ってますよ」 「どうりで寒いわけだ」 そんな他愛のない会話をしながらケーキ作りを進めてゆく。 チーンと音を立ててオーブンが焼き上がりを知らせる。 「ん、いい感じ」 ふかふかに膨らんだスポンジを取り出して明彦が満足げに笑う。 少し冷ましてから生クリームをたっぷりと塗りつけ、真っ赤な苺をたくさん飾って完成♪ それをクリスマスの雰囲気を出すためにありったけのロウソクを飾ったテーブルに切り分けて並べる。
「……」 「……」 テーブルについて、あとは食べるだけ……なのだが、なぜかお互いに食べようとしない。 「食べないのか?」 「……あきこそ」 ふたりともどこかそわそわしながらお互いの様子を探っている。 実は互いが互いに食べさせ合う事を提案しようと考えているが、迷っていたりする。 短い沈黙を破ったのはハディード。 「……あーんって、したら、怒る?」 思い切って。小声で尋ねる。 「!? ……そ、それはお前が俺にか? 俺がお前に、か?」 「……」 明彦の問いには答えず、ハディードはお願いするように明彦を見つめた。 「し、仕方ないな……。ほら、口開けろ」 照れながらぶっきらぼうに明彦はハディードにフォークを向けた。 「ん……、おいしいです」 ぱくりとケーキを口に含んだハディードは満足そうにほほ笑んだ。その笑顔を見て明彦も満面の笑顔を浮かべる。 「こ、今度は交代だ」 「ええ。あき、あーん……」 ケーキをすくって明彦の口元に差し出す。あーんと明彦が口を開け……クリスマスの甘い甘い夜はやわらかに更けてゆく。
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