松元・恵弥 & 宮城・ナツミ

●『ふたりなら、こんなクリスマスも悪くない』

「ほら、こっちも煮えてるぜ」
「自分で取るからいいってば」
 雪の降り積もる静かな夜。
 小さな部屋の真ん中に置いたコタツに入り、二人の男女が鍋デートを楽しんでいた。
 パンク好きの生意気少年恵弥は『超』が付く寒がりで、今もダルマのように丸々着込んでコタツに潜り込んでいる。
 恋人であるナツミが用意した料理が鍋なのは、恵弥の『肉も甘いものも嫌い』という、クリスマスから縁遠い嗜好のためだった。
 野菜オンリーのヘルシー鍋を、仲良く二人でつつく。
「は、はふっ、ふー、ふー……」
(「ふふっ」)
 おなじく『超』の付く程の猫舌な恵弥は、必死に息を吹きかけ冷ましながら口に入れている。
 そんな少年の様子を、ナツミは微笑ましく見つめている。
 クリスマスらしい華やかさのかけらも無い食卓だったが、そんなことは二人にとって何の問題でもありはしなかった。
 大事な人と一緒に、手作りの料理を仲良く食べる。
 それ以上の贅沢など、きっと探した所で見つからないだろう。
「ほら、メグミ」
「ん?」
「あーんっ♪」
「ええっ?」
「ほーら、あーん♪」
「――もう、どこのバカップルだよー」
 小悪魔な笑みを浮かべつつ箸を差し出してくるナツミ。
 恵弥は恥ずかしがって悪態をつくものの、家で二人きりで過ごせるという珍しさも手伝い、隠し切れない嬉しさを滲ませながら食べさせてもらう。
「あ、熱っ!? あつ、熱いっ!?」
「うわ、ちょっと、大丈夫!?」
 恥ずかしさのあまりに注意がおろそかになっていたのだろうか。
 よく煮えた野菜をくわえた次の瞬間、口の中を火傷した恵弥が熱さに目を回してゴロゴロと部屋の中を転がりまわる。
 慌てて跳びついてくるナツミと二人、しばらく大騒ぎをしてしまう。
「ゴメンなー?」
「ん、あ、ああ、もう大丈夫だから」
「……それじゃ、次はあたしの番だなー?」
「え、ええっ!?」
 ニヤニヤと笑みを浮かべ、唇を突き出し催促するナツミ。
 先ほどよりも遥かに恥ずかしく思わず顔中を真っ赤にしてしまう恵弥だったが、期待に満ちた瞳に逆らえず、結局は『あーん』なんて言いながらお返しをする。
 ひとしきり堪能した後、先ほどの恵弥の照れた様子を指摘して悪戯げな笑みを見せるナツミ。
 その言葉に、より顔を赤くしてそっぽ向いてしまう恵弥を、ナツミは笑いながら宥める。
 こうして二人きりの夜は、派手なイベントとは無縁に――けれども、かけがえのない『特別』な喜びとともに更けていくのだった。



イラストレーター名:新井テル子