比良坂・燐音 & カイト・クレイドル

●『輝きの中で』

「寒いけど、イルミネーションを見ながらのお食事も素敵よねー」
 イルミネーションが輝く街角……燐音はそう呟くとガブリとチキンハンバーガーにかぶりついた。続いてチキンバーレルも頬張る。
 手元には他にもフライドポテトやサラダなどもバッチリ用意されていた。
「格式ばってるのよりこういうのが僕ららしいよな」
 燐音の隣に腰を下ろしたカイトも頷く。
「……っと、リンネはお嬢様だから違うんだっけ?」
 ニヤッと笑ったカイトに、燐音は「うぐっ!」と口に含んだポテトを詰まらせそうになる。
「た……たまには庶民の味も悪くないですわね!!」
 今更かもしれないが、普段の調子でがっついていたことに照れが生じた。
 少々むせかけた燐音に「うはは、悪い悪い」とカイトは笑う。
 燐音は自身を落ち着けるように湯気が立ち上る紙のカップに口をつけた。一口、二口と飲みこんで、街の明かりに目を細める。
「苦しい戦いが多かったけど、こうして静かな聖夜を迎えられたと思うと報われたって実感がしますわね」
 先程までとは違う、燐音の静かな声にカイトは瞬いた。
 瞬いた後、カイトは同意を示すかのように微笑みを浮かべる。
「この先もどんどん辛くなるかもとか、そんな暗いこと言うよりは今を楽しまなきゃな!」
 指先についたソースを舐めると、燐音へと視線を移す。
「可愛いお姫様も隣にいるわけだし」
 ――考えることは沢山あるけれど、今、この時間は大切にしたい。
 そんな想いの滲むカイトの声音に気付いて、燐音もまたふわりと笑った。
 「今、この瞬間を大切にしたい」と思うのは燐音も同じだったから。
 しばらくその場を支配するのは穏やかな沈黙。
 燐音はチキンバーレルをつまむと、一つを口に放り込んだ。
 もう一つをつまんで、燐音はしばらくそのチキンバーレルを見下ろす。
「……そうね、楽しみましょ」
 燐音の目がキラリと光った。カイトはそのことに気付かないまま顔を向けると、燐音がにーっこりと笑った。
「じゃあ、一年間頑張ったカイトにご褒美♪」
 つまんだチキンバーレルを、カイトへと差し出す。
「はい、あーん」
 そんな燐音の行動にカイトは「え?!」と思わず声を上げた。
 ドギマギするが、折角の燐音からの給仕。断るような理由もない。
「あ、はい! あーん」
 カイトの口元にチキンバーレルが運ばれる……かと思ったが。
 燐音は指先をヒョイと動かし、カイトの口元ギリギリで方向転換した。
 パクリ、と自分の口の中にチキンバーレルを放り込む。
 もぐもぐと頬張り、ちょっとばかり呆然としているカイトにニッと笑った。
「ふっふっふ、まだまだ甘いですわよ!」
 ――先に燐音をからかう、なんていう意地悪をしたのはカイトだったのだが……仕返しをされてしまった。
「ですよねー!!!」
 燐音は「オーッホッホッホッ!」と勝利の声を上げる。
 キラキラとしたイルミネーションが二人を柔らかく包んでいた。



イラストレーター名:新井テル子