●『聖なる夜のスイートパレード』
「ホントにやんのか?」 「普通にやっても目立たねーだろうが。ほれ、そっち少し歪んでんぞ」 クリスマスイブのとあるケーキ屋で、トナカイとサンタがツリーの飾りをせっせと剥ぎ取っている姿が目撃された。 「へっへー、中々いい感じになったんじゃねーか?」 失敬した飾り物でリヤカーをデコレートしていたトナカイ――瑞鳳が、その大きな胸を揺らして誇らしげに頷く。 サンタの格好をした兇は、トナカイ役の瑞鳳がその『即席そり』に乗り込むのを見て、『やっぱりか』と小さく溜息をつくのだった。 事の発端は少し前。 売れ残ったケーキ獲得を目的として、ケーキ屋のアルバイトに兇と瑞鳳がやってきたところから始まる。 店頭販売だけでは周囲のケーキ屋と差別化がはかれないと、宣伝と呼び込みに街中を回って来いと送り出された二人。 瑞鳳が、普通にやっても目立てないなと思案していた所で目に付いたのは、店の裏に置かれていた少し古ぼけたリヤカー。 早速店の前にあるツリーの飾りを強奪し、即席の『そり』に仕立ててしまったのだった。 「さぁ、出撃だ。行くぞ、兇!」 普通なら、そりを引くのはトナカイの役目。 のはずなのだが、体力的なことと瑞鳳からの無言の圧力によって、世にも珍しい『トナカイが乗ったそりを引くサンタ』の図と相成ったのだった。 (「ま、ハロウィンの時にも似たような事やらされたし、こうなるって分かってたけどな……」) 笑顔でビラを撒く瑞鳳を落とさないよう気をつかう兇だったが、当のご主人様はそんなことを全然考慮してくれないらしい。 赤い鼻をつけた瑞鳳が大きく体を動かすたびに、サンタはバランス取りに四苦八苦する。 「安いよ安いよ〜! なんと今ならクリスマスケーキが四割引!」 ちょっと変わった売り声と、サンタがそりを引くというもの珍しさ、そこに笑顔の美少女トナカイを加え、ケーキの売り上げは上々だったという。 「ふふん、アイデアの勝利ってヤツだな」 「おいおい、俺の努力も認めてくれよ?」 「……うむ。よくやった。褒めてつかわす――ってか?」 全身を酷使したために体の動きがおかしくなっている兇の抗議に、瑞鳳は少し吹き出しながら、兇の頭を力いっぱいに撫でまわしたりするのだった。
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