加奈氏・さりあ & 玖堂・統夜

●『はじめての二人、クリスマス。』

 いつもと変わらぬはずの部屋。
 けれど、今日は違う。
 ふと、ベッドに横たわりながら、窓の外を窺う。
 夜だというのに、いつもより明るく感じるのは、ゆっくりと降り続く淡い雪のせい?
 それとも、今日がクリスマスイヴの夜だから?
 いずれも違うと、さりあは思う。
 きっと……それは、隣に統夜が、いるから。

 統夜と付き合い始めたのは、10月の終わりかけの頃。
 かといって、いつも会えた訳ではない。
 会えない寂しさ。
 さりあにとって、それは辛い時期だったのかもしれない。
 自暴自棄になり、他人を求めそうになったこともあった。
 そのとき、浮かんだのが……統夜の顔だった。
 裏切れなかった。
 だから、苦しくても耐えて、そんな感情に押し潰されないように耐えて。
 そして、今日を迎えた。
(「統夜さんには、言えませんけど」)
 思わず、さりあは苦笑を浮かべる。
 ずっと忘れられなくて。戦争のときも忘れそうになったけれども、でも、やっぱり忘れられなくて。
(「今日だって」)
 少し前、そう統夜に会う少し前のことを思い出した。
 早く会いたい一心で。無我夢中でバスに乗車する際、タラップがあるのを忘れて、そのまま走り突っ込み、見事、脛を打ちつけてしまったことを。
(「その痛みももうどこかにいっちゃいましたね」)
 そういえば、少し赤くなっていて、統夜に心配させてしまったような。
(「本当のこと、言えませんよね……」)
 静かに眠っている統夜を見つめながら、さりあもゆっくりと瞳を閉じた。

 思い浮かぶのは、愛を確かめ合った幸せな時間。
 互いの温もりを感じて。
 求めていたものが満たされる、そんな甘いひと時を。
 外はずっと、雪が降っているというのに、寒さなんて感じなかった。
 二人で居ることの幸せを、暖かさを、温もりを体感した。
 そして、眠る前に重ねた、互いの唇。
 その感触が、離れない。
 いや、むしろ、心の奥に刻み込まれている。
 深い深いキスの後、二人が一緒に呟いた言葉は。
「「メリークリスマス」」
 同時に生まれたありたきりの言葉。
 これが二人っきりで過ごす、初めてのクリスマスイヴ。
 さりあにとって、それは忘れられない日となった。
 夢にまで見るほどに……。



イラストレーター名:魂神