●『雪女たちの聖夜〜想い出と絆と〜』
「はーっ、いい湯加減ね〜っ」 しみじみと漏らすアイの言葉に、少し笑ってユウが同意する。 今日はクリスマス。 せっかくのおめでたい日だからと、姉妹二人で昔遊びに来た思い出の地の旅館にやって来たのだった。 浸かっている内にちらちらと雪も降り出し、眺めの良さと相まってなんとも風情のある光景だ。 「温泉だと、『ホワイトクリスマス』っていうより、『雪見酒』って感じだけどねー」 のんびり体を伸ばしながらそんな事をいうアイ。 姉妹水入らずで一緒の時を過ごせるのが嬉しいのだろう、ユウは妹の少しはしゃいだ様子を微笑みを浮かべ見つめている。 「なっつかしいわね〜。こうしてまた二人で温泉に来られるとは」 「そうだね……知ってる? ここ、源泉は昔一緒に入ったところと同じなんだって」 もう何年前のことだっただろうか。 遠い日の記憶を辿りながら、姉妹の思い出話に花が咲く。 「ほら、お姉さま。空がすっごくキレイよ」 「本当。こんなにたくさんの星を見るのも久しぶりね」 雪がおさまったと思ったら、今度は満天の星空が二人を包み込む。 冬の冷気で澄んだ空気のせいだろうか、まさしく『落ちてきそうな』くらいに近く感じる星々。 そうして思い出話をしたり景色を楽しんだりしていた二人だったが、そろそろ頃合かと立ち上がったアイは、手を伸ばして風呂桶に入れていた包みを引き寄せる。 「そうそう。はいこれ、クリスマスプレゼント」 「え? アイ……?」 「目覚めてから知った風習だけどね。メリークリスマス、お姉さまっ」 なにが起きたのか理解できずに混乱している姉へ、満面の笑顔を向けてプレゼントを手渡すアイ。 「あ、ありがとう……」 呆然としつつ包みを受け取ったユウだったが、ようやく実感してきたのだろう。 感極まって俯くと共に小さくしゃくりあげてしまう。 (「あらあら。もう……すぐに涙ぐむんだから」) 感動屋な姉に少しあきれながらも、それだけ喜んでくれたのが嬉しくて、ついつい貰い泣きしてしまいそうになるアイなのだった。 「また来年も、こうして一緒に過ごせるといいわねー」 アイのその言葉に、頷きながらまた泣き出してしまうユウ。 二人の特別な夜は、こうしてあたたかな姉妹の絆を再確認しつつおだやかに過ぎていくのだった。
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