中茶屋・花子 & 釜崎・アイリーン

●『日本に来たシークレット・サンタ〜皆が幸せになれる日』

 クリスマス・イヴ。
 花子は一人、街を歩いていた。
 ポケットには、2千円札を忍ばせている。……困っている人に、配るつもりだ。
 たった、2千円かもしれない。けれど、それがあれば喜ぶ人がいる。助かる人もいる。ほんのささやかな幸せを配りたい――花子はそう、思ったのである。
 そんな花子の目に、一人寂しくベンチに座る、桃色の髪を赤と青のリボンで飾ったツインテールの少女が映った。
 たった一人、公園のベンチでクリスマスを過ごすアイリーン。
 もともと、帰ることのできる家も無いから寂しいとも思わないし、雪女だから寒さに震えることもない。けれど、その視線はどこか、街行く人を羨ましそうに眺めていた。
「メリークリスマス♪」
 そこへ明るく声を掛けてきた花子に、ぱちくりと大きな藍色の瞳をまばたく。真っ白なオーバーオールに、赤いスウェット、サングラスと赤いキャップで変装をしたその女性が、花子だとは気付いていないようだ。花子は、ぽかんとしているアイリーンの隣に腰を下ろし、彼女の手に1枚の紙を握らせる。
「私からのクリスマスプレゼントですわ」
 もちろんそれは、2千円札。
 渡されたものの大きさに、アイリーンはたどたどしく訊ねることしかできなかった。
「い……いいんですか?」
「クリスマスは、誰もが幸せになれる日ですのよ?」
 にっこりと微笑んでから、立ち去ろうとする花子。
「待って!」
 アイリーンは慌てて立ち上がって問う。
「あなたは一体……?」
「人はこう呼びますわね」
 振り返った花子は、今度は悪戯っぽく笑って見せてから、用意していた答えを口にした。
「『Secret Santa』と……」
 そう言って、軽く手を振った花子は振り返らずに去って行く。またアイリーンと同じように、困っている人を探しているのだろうか。

 どうか、世界中の全ての人が幸せなクリスマスを送れますように……。
 いつかその願いが叶うことを信じて、秘密のサンタは幸せを配り続ける。



イラストレーター名:魂神