●『ふたりの夜〜これまでの事、これからの事〜』
冬の空から、しんしんと降る雪はクリスマスに沸く街をゆっくりと覆いつくす。 大通りを歩く人の姿も、降り積もる雪に隠れるように減っていく。 室内でも雪の影響で、普段よりもずっと静かな夜だった。 その分、隣にいる人の息遣いまで感じられ、普段よりもずっと距離が近く感じる。 明かりを落とした和室に、敷かれたふとんは1組だけ。 ふとんの中で互いに体を寄せ合って、紫門と由美は温もりを確かめていた。 部屋は暗くても、2人で話しているのが楽しくて、長い間そうしていた。 「あったかいねぇ。紫門」 会話の切れ間に、呟いた由美がほんの少しの隙間を埋めるように、紫門へとひっつく。 じんわりと伝わる彼女の温もりを感じ、紫門が由美を抱き寄せる。 「男女で体温違うんだっけ」 お互いの温度が交じり合って、ふとんの中はとても温かい。 もうすぐ卒業を迎える、銀誓館の学生として最後のクリスマス、2人で過ごす3度目のクリスマス。 あっ、という間に過ぎていった3年間を2人は思い出しながら、語り合う。 これまでの事を振り返れば、色々なことが、本当に色々なことがあった。 楽しい思い出や、恥ずかしい思い出。 泣いたこと、怒ったこと。 それでも、紫門の心の内で変わらないことがあった。 (「……由美と一緒に居る事が、俺の幸せって事だ」) すぐ側で、彼を見上げる由美の顔をじっと見つめ、紫門は1度深呼吸をする。 (「これからもずっと、由美と歩いていきたい……気が早いかもしれねぇけど言ってみるか」) ぎゅっと、紫門が彼女の体を抱き寄せた。 「……なぁ由美。これからも、俺とずっと一緒に居てくれるか? ……つまり、結婚してくれって事なんだが」 真剣に、彼女の目を見て紫門が告げる。 「まだ社会人になってねぇし婚約って感じだけどなー」 そう続けて呟いたのは照れ隠しか、紫門は由美へと笑みを向けた。 暗い部屋の中で、由美は彼の笑みを見ながら、やさしく微笑む。 そっと、彼にだけに聞こえるように答えた由美の言葉は、降り積もる雪に呑まれて他の誰にも聞くことは出来なかった。 ただ、彼女の微笑みはとても嬉しそうなものだった。
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