●『ケーキよりも甘いひととき』
目映い光が、その瞳に映る。 美しい銀色の髪。ふわりと揺れて、煌いた。 「カインっ」 そういって、振り返る彼女の笑顔が、側で輝くイルミネーションよりも眩しくて。 思わず、瞳を細めた。
クリスマスの夜。 イルヴァとカインは、町を歩いていた。 時折、聞こえる弾むような歌。それが二人の耳にも届く。 けれど、その全てが聞こえているわけではない。 「イルヴァ、そんなにはしゃぐと、転ぶぞ」 「大丈夫ですわ。カインもいますし」 くすっと笑みを浮かべるイルヴァに、カインは思わず肩を竦める。 二人だけの時間。 それを明るく照らすのは、町を彩るイルミネーション。 暗いはずの夜は、今日だけは特別、明るいようだ。 その仄かな明かりが、彼女を美しくみせているのかもしれない。 そんな時間が、カインには愛おしく感じる。 「イルヴァ」 そっとカインは、彼女の名を呼んだ。差し出されるのは、その右手。 「どうか、したのですか?」 「いいだろう? たまにはこういうのも」 なかなか差し出さない手を、半ば強引に掴んで引き寄せる。 引き合う、体と体。 「あっ……」 僅かにイルヴァの頬が火照っているのは、気のせいだろうか? 「それにこうした方が、守りやすいしね」 微笑を浮かべて、カインはそうイルヴァに囁き、そっと距離を置く。 けれど、その手だけは離さずに。 「一度、こういうのもしてみたかったんだ」 クリスマスに。 その言葉は口から出ることはなかったが、きっと届いただろう。 「あの」 小さく呟いて、イルヴァは続ける。 「ちょっと驚いておりますわ」 嬉しそうに微笑んで紡いだ言葉は。 「私も同じ気持ちでしたから」 二人は嬉しそうに微笑む。 他の者から見れば、それはほんの些細な事かもしれない。 クリスマスの夜。 大胆な……とまではいかないが、ささやかな幸せ。 それが二人にとっては、特別なかけがえの無い思い出の時間となる。
(「これもまた、クリスマスという特別な日が、そう思わせるのでしょうか?」) イルヴァはそう心の中で呟きながら、その手の温もりを、幸せを感じている。 (「今日はずっと、時間が止まればいいのに、なんてな」) 笑みを浮かべながら、カインも願う。 この幸せな時間が、続きますようにと。 幸せな時間を感じながら、二人はゆっくり、ゆっくりと夜の街を歩いていくのであった。
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