アレックス・ザナンドゥ & 祭綸寺・美香

●『二人の影は・・・近づいて・・・』

 サクサクと、踏めば崩れる新雪が一面公園を覆っていた。
 今日がクリスマスでも、ここまでしっかりと雪が積もると、公園の中に恋人たちの姿は少ない。
 でも、それを幸いと考えている人もいた。
「ほら、早く行きましょう。せっかく雪が降ったんだもの、私の足跡を最初に刻みつけてやらなくっちゃ」
 白い雪に映える、真っ赤なコートの裾を翻し、美香が積もった雪に踏み込んでいく。
 彼女のつけた新しい足跡を追って、アレックスも雪の公園へと踏み込んでいった。
「あの。そんなに走ると危ないと思うんだけど、滑るかも知れないですよ」
 心配そうに声をかけるアレックスに、美香がクルリと振り返って自信満々の表情で笑った。
「大丈夫ですわ、私にかかればこんな雪くらっひゃぁ!」
 アレックスを振り返ったまま、後ろ向きに歩き出した美香が足を滑らせる。
 雪に埋まっていたビニール袋が宙を舞い、美香は空を向いて倒れていく。
 ぼす!
 冷たい雪に埋まる感触を予想した美香を、駆け寄ったアレックスが受け止めた。
「ぎりぎり、セーフですね」
「……ま、まぁ。そうですわねっ」
 美香の体を抱いて、アレックスが微笑む。
 慌てて、彼の体から立ち上がった美香の手をアレックスはそっと握った。
「やっぱり、危ないからゆっくりいきましょう」
 彼女の歩幅に合わせて、アレックスがゆっくりと歩く。
「……あ、はい」
 つないだ手と、彼の顔をちらちらと見ながら、美香は急に大人しくなった。いつもとは逆に、リードされる側になると急にアレックスが頼もしく見える。
 そのアレックスも、かなりがんばって彼女をエスコートしているのだが……。
「あ、雪。きれいですね」
「ええ、まるで光が降っているみたい」
 背の高い電灯の光が、夜空から降る雪に反射してきらきらと光る。
 足を止めて、2人は並んで雪を見上げた。
「え……」
 夜の寒さのせいか、かすかに震える美香の肩をアレックスがそっと抱き寄せる。驚いてアレックスの方を見れば、彼はじっと、美香の瞳を覗き込んでいる。
「美香さん……」
 つないでいた手も離して、アレックスが両手で彼女の細い肩を抱く。少し緊張した彼の声に、美香は頬を赤く染めながら、そっと瞼を閉じる。アレックスもそっと目を閉じて、彼女へ体を寄せた。
 訪れる沈黙と、それから……。
 光の無い世界で、やわらかなぬくもりが2人をつないでいた。



イラストレーター名:志村コウジ